第15話 証拠はあるのか
「エリス・アークライト。」
生徒会長の声が静かに響く。
「自主退学を勧告する。」
部屋の空気が凍り付いた。
「待ってください!」
レオが机へ身を乗り出す。
「退学なんて、そんな話――」
「決定事項だ。」
「理由は!」
「必要ない。」
まただ。
会話にならない。
レオは唇を噛み締めた。
昨日までの生徒会長なら、こんな人ではなかった。
話を聞き、証拠を集め、公平に判断する人物だった。
目の前にいるのは、その面影だけを残した誰かのようだった。
ガストも静かに口を開く。
「学園の規則では、重大な処分には証拠と証言が必要なはずだ。」
「必要ない。」
「規則を無視するのか。」
「必要ない。」
同じ言葉しか返ってこない。
エリスの顔から血の気が引いていく。
その時だった。
「ねぇ。」
静かな声が部屋へ響いた。
全員の視線が集まる。
カリムだった。
「何だ。」
生徒会長が答える。
カリムは眠そうな表情のまま首を傾げた。
「証拠は?」
一瞬。
部屋の空気が止まった。
「……何?」
「退学させる証拠。」
「ある。」
「見せて。」
生徒会長は黙った。
レオが目を見開く。
ガストも生徒会長を見つめる。
エリスは息を呑んだ。
数秒。
誰も口を開かない。
やがて生徒会長が低く言う。
「見せる必要はない。」
「何で?」
「決定事項だからだ。」
「それ、おかしくない?」
カリムは本当に不思議そうだった。
責めているわけではない。
怒っているわけでもない。
純粋な疑問だった。
「悪いことをしたなら証拠がある。」
「証拠がないなら決められない。」
「違う?」
その一言に、生徒会役員の一人が小さく肩を震わせた。
「……会長。」
思わず漏れた声だった。
「本当に証拠はあるんですか?」
「黙れ。」
即座に返された言葉は鋭かった。
役員はびくりと身体を震わせる。
レオはその様子を見逃さなかった。
(今の……。)
役員まで戸惑っている。
つまり、この状況を当然だと思っている者は誰もいない。
それなのに。
生徒会長だけが、何かに突き動かされるように同じ結論を繰り返している。
「……やっぱり。」
カリムは小さく呟く。
「変だ。」
その言葉と同時に。
部屋の空気がわずかに揺らいだ。
誰も気付かないほど、小さく。
生徒会長だけが一瞬だけ眉をひそめる。
まるで歯車が噛み合わなくなったように。
「……っ。」
小さな呻き声。
ほんの一瞬だけ、生徒会長の表情へ苦しそうな色が浮かぶ。
しかし次の瞬間には消えていた。
「本日の話は終わりだ。」
生徒会長は背を向ける。
「退室しなさい。」
「待て!」
レオが叫ぶ。
だが返事はない。
生徒会長はそのまま奥の部屋へ姿を消した。
重い扉が閉まる音だけが、生徒会室に響く。
残された四人は誰も動けなかった。
カリムは閉ざされた扉を見つめながら、小さくため息を吐く。
「……昼寝、できなかった。」
その一言に、レオは力なく笑った。
「そこかよ。」
だが、その笑いはすぐに消える。
誰もが同じことを考えていた。
これは、ただの退学騒ぎではない。
何かが、確実におかしい。
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