第1話「残響」の冒頭一文「コンビニの自動ドアはまだ動いていた」が全てを物語る。
人類が消えた後の東京。主人公・透は一人でその廃墟を歩いている。この作品の凄みは、終末を「絶望」として描かないところだ。信号が消えた交差点が草原になっている描写、渋谷のハチ公像の跡に木が生えている描写——失われたものの悲しさを直接語らず、変化した景色だけで伝える。
そして「キノコジカ」の存在感が圧倒的だ。鹿の背中に大きなキノコが生えたその生き物が、渋谷駅の構内で仲間と静かに暮らしている場面の美しさ。透が「ここはお前の家だったんだな」と呟く一言に、人間がいなくなった世界の静けさと、その中の豊かさが滲む。
短い一文を積み重ねる文体が、透の孤独な思考のリズムと完璧にリンクしている。終盤に現れる床の震動が次話への引きとして完璧だ。