第7話 従姉妹のお風呂で電話越しにギャルは曇る。
文化祭に出す部誌には百合小説を書こうかと思っていた。だが例の殺人事件もあったので、せっかくならミステリーにしようかと思っている。
「なるほどね……」
人によって異なるとは思うが、ミステリーは1番書きやすいジャンルであるらしい。
起承転結とミステリーの構造の組み立てがたぶんそもそも相性がいいのだろうと思う。
なので今回近場で起きた事件を元にしてミステリーを書きたい。
百合は来年でもいいだろう。いやむしろ来年の方が良い感じに育っているかもしれないまである。
「いずれも幕張内で起こっているのか。そいえばちゃんとニュース追ってなかったな」
スマホで一通り調べて概要だけでも把握する。
もちろん警察の機密事項は調べようもない
「つーくんっ。何してるの?」
「調べもの」
「この間の事件のやつ?」
「んー。そー」
いつの間にか俺の部屋に無断で入ってきた檸檬は俺の肩にひょっこりと顔を出して両肩を掴んでいる。
距離が近すぎて困る。これがお姉ちゃんだったらすぐさまル○ンダイブしていたに違いないのだが、残念ながらそんなことはない。
俺はお姉ちゃんでしかヌケないのだ。
「部誌に載せる小説の題材にしようと思って」
「ミステリー書くの? すごいね」
「ミステリー書くだけなら誰でもできるぞ。面白いミステリー書ける人がすごいだけで」
つまらないミステリーなんてたくさんある。
そんな中で面白いミステリーを書けるのは本当の才能なのだろう。
「つーくん、スマホ鳴ってるよ?」
「んー? ああ。立花か。そういえば小説のことで教えてほしいって言われてたな」
「学校で聞けばいいのに」
「家でも書いてくれるならべつにいいだろ。締め切りさえ落とさなければ俺は何も言わない」
ギャルな立花が小説を書く気になっているというだけでたぶん宝くじ2当賞くらいの奇跡だと思ってる。
「もしもし? 立花さんですか?」
『うん。高原? ごめんね。こんな時間に』
「問題ない。俺も今書いてたところだし」
「立花さん、ズルいですよ。抜け駆けなんて」
『宵待さん?! なんでこんな時間に高原の家にいるわけ?!』
「だって幼馴染ですから」
『そ、そっかぁ……そだよね……』
「そんなことより立花さん、聞きたいことってなんですか?」
「『そんなこと?』」
あっ、これはヤバイ。しくじった。
うっかり出しゃばって百合の間に挟まってしまった。殺されるかもしれない……。
こんな些細なことでも挟まった判定になるのかぁ……シビアだなぁ百合界隈。
「あ、すみません。言葉の綾でしたそんなことないです申し訳ございませんでした」
「そうだよつーくん? せっかくつーくんに手とり足とり教えてもらおうって思ってたのに」
『手とり足とり……』
「ん? 檸檬も小説のことで教えてもらいたかったのか? まあいいけど。てかそのまま3人でオンライン会議みたいな感じでやるか?」
「……いや。いい。わたしお風呂入ってくる」
『お風呂?!』
なんか檸檬が拗ねてお風呂に行ってしまったがどうでもいいか。さすがに3人で話すなら部活の時でいいだろうし。てかそんな社畜みたいなことしたくない。
俺はただの本好きの高校生でしかない。
「えっと、それでなにを聞きたいんだ? 立花さん」
檸檬が俺の部屋を出たのを見送って立花とのやり取りを再開した。
学生でしかないとはいえ、やることはさっさと済ませたい。
『その、小説ってそもそも何書いたらいいかとか、全然わかんなくて……』
「うーん、まあ、そうですよね……わかんないですよね」
考えてみたら当たり前か。
そもそも何かを表現したいなんて人が異常な存在なのだろうし。
俺だってそんなに表現したいことが明確にあるわけじゃない。
多くの人が何かしらのコンテンツを受け取る側なことの方が圧倒的に多い。
「まあ最初なら、自分の興味のあるジャンルとか、好きなものに近いジャンルを選ぶとかになるかもですね。俺ならミステリー好きだから、ミステリー書こうって思ったりとか」
『高原ってミステリー好きなんだね。なんか頭良さそー』
「頭良いかはさておき、立花さんが好きなものとかでとりあえずジャンル決めることにしましょう。映画は普段どんなのを観るのが好きかとでもいいんですよ」
『映画かぁ。だとしたら、恋愛、とかかな』
「なら恋愛ものにすればいいんですよ」
『そっか。こんなんでいいんだね』
「好きじゃなきゃ書けないですよ。大変だし」
『あはは〜たしかに』
1万文字くらいなら簡単とか言っておきながら、つまらないことを1万文字なんて書けない。苦行である。
それに俺らはプロの作家でもない。
好きに書けばいい。
読者の読みたいものはなにかとか、読者のために書くとか、そういうのはプロとかプロを目指す人のすることだ。
俺らの目標はとりあえず部誌を関係させること。
学生に求められているのはそれだけだ。
「じゃあ立花さんの書きたいジャンルは恋愛もので決まりってことでいいですね?」
『うん。そだね。ありがと。高原』
「いえいえ。これも仕事みたいなのですから」
これが仕事になるなら、悪くはない気はする。
自分の人生は大して面白くはないけど、小説編集者なら作家さんが間近で面白い文章を紡いでくれる。
それなら少しは自分の人生もマシになるのかもしれない。天才にだって会えるかもしれない。
「つーくん! 大変!! 水しか出ないんだけど?!」
「……檸檬、華の女子高生がタオル1枚で男の目の前に出てくるなよ……」
『た、タオル1枚?!』
「つーくん助けて?!」
「あー、うん。とりあえず給湯器見に行くから少し待ってて」
「なんなら一緒にお風呂入る?」
「入らんわ」
「昔は一緒に入ったじゃん?!」
『……い、一緒に、お風呂……』
なんかさっきからちょいちょい立花の声が遠くなるんだよな。いや、檸檬の声が大きいだけか。
「まあ小説の方向はそんな感じで。またなにかあったらいつでも連絡ください。檸檬のとこ行かなきゃなので」
『あ、うん…………ありがと。…………はぁぁ』
一先ず俺は立花との通話を切って檸檬の元へと向かった。
小説執筆が進まない……。
俺も俺でわりと余裕はないんだよなぁ。
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