第31話 赦しと記憶

 荒木律子は警察に自首した。


 告発状を書いた後、彼女は隆次に最後に会いに来た。


「あなたを利用したことを、本当に申し訳なく思っています。でも——あなたのお父さんのことは、誰かに知ってほしかった。本当に」


 隆次は何も言わなかった。ただ、荒木の目を見ていた。


「罪を犯した人間でも、悔いることはできる」


「……ええ」


「あなたのお父さんは、悔いながら生きた。あなたのお父さんが売った記憶の中に——それが全部詰まっていた。私は、それをあなたに届けられてよかったと思っています」


 荒木が去った後、隆次は事務所の窓から空を見た。


(荒木律子。嘘をついた人間。でも、嘘の中に本物の気持ちがあった)


(そういう人間を、赦せるか?)


 隆次はわからなかった。でも——赦すかどうかより先に、理解したいと思った。


 人はなぜ嘘をつくのか。なぜ罪を犯すのか。なぜ記憶を売るのか。


 そこには必ず——理由がある。


【つづく】

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