この作品の不気味さは、何か派手な怪異が起こるところにあるのではありません。
むしろ、作中で実際に起きていることだけを抜き出せば、露骨に恐ろしい出来事が連続して起こるわけではなく、地味であるとすら言えます。
けれど、文章の端々に置かれた違和感が、読み進めるうちにこちらの想像力をじわじわ刺激してきます。本当に怖いものが目の前に現れるのではなく、読者自身が「これは何かおかしいのではないか」と考えてしまう。
その感覚は、廃墟となった日本家屋を深夜に探索している時のようでもあります。畳のきしみ、暗い廊下、開けてはいけない襖。その奥に何があるのか、実際にはまだ何も見えていないのに、勝手に想像して背筋が冷えていくような怖さです。
日常の風景の中に、ほんの少しだけ混ざる異物感。
それを追いかけているうちに、いつの間にか作品の空気に呑まれていました。
ホラーとミステリーの境目を楽しみたい人、そして「説明されすぎない不気味さ」が好きな人におすすめしたい短編です。