「熱中症の徘徊」という現実的な警察の解釈を、最後にデータが完全にへし折る構成の美しさに鳥肌が立ちました。
ただの不思議な体験談に留まらず、緑の霧、腐敗した蜜の匂い、呼吸音のないスピーカーのような声、そして「83:16」という狂ったデジタル時計など、異界側の『ルール』が緻密に描写されているため、読者は主人公と一緒にその「存在しない樹海」に迷い込んだかのような圧倒的な没入感と恐怖を味わえます。
「甘い匂い」から「腐敗臭」へのグラデーションがもたらす嫌悪感の描き方が凄い。
最初は「お菓子工場かな」と思うほどの好ましい蜜の匂いが、森の奥へ進むにつれて「夏場の生ゴミの奥にある不快な甘ったるさ」に変貌していく五感の描写が生々しいです。この匂いの変化が、その空間の危険度を五感を通して語っています。