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    まず冒頭で、ありがちな異世界転生物の展開を裏切っている点が高評価です。
    本作はむしろ、ファンタジーの衣を纏った「農奴・徴兵・帝国・物流・奴隷制」の社会史小説であり、その上で主人公ベンハミシーの“幸福感覚”を軸に据えた極めて異色の作品です。
    特に印象的なのは「文明レベル差」を説明ではなく食事と労働で描いていることです。
    また、ベンハミシーという主人公が非常に良い。

    彼は決して英雄ではない。
    知識も野心もなく、十を超える数も数えられない。だが同時に環境への適応力と生命力に異様な強さを持っている。
    普通の作品なら「徴兵」「敗戦」「奴隷落ち」は転落として描かれるはずです。しかし彼にとっては故郷にいた時より軽い旨い飯が食えて、しかも嫁までもらえる。
    これだけで彼にとっては天国なのですね。
    この価値観の転倒が本作最大の魅力でしょう。

    さらに興味深いのは、世界観に漂うSF臭です。明らかに中世ファンタジーではない。
    しかし作中人物の認識レベルが低いため、彼らには「怪物」や「魔法」にしか見えない。
    とりわけ攻城戦の場面は秀逸でした。
    農兵たちの視点では、突然光と衝撃が発生し、世界が消し飛ぶ。だが読者側には、近代兵器あるいはそれ以上の何かだと解る。
    この認識ギャップ型SFの使い方が非常に上手い。

    そしてラスト。
    ニーデリヒ坊ちゃんと家庭教師リーゼェの場面。
    ここで作品の空気が少し柔らかくなる。
    奴隷頭となったベンハミシーは、もはや搾取されるだけの存在ではない。
    彼には居場所があり、家族があり、日常がある。

    だが同時に、自分の子供たちは売られて行った。

    この静かな残酷さが、本作らしい余韻でした。
    悲劇を絶叫せず、ただ人生として受け入れている。そこに妙なリアリティがあります。
    この世界そのものについての情報は不足している感がありますが、それは第2話以降のお楽しみなのでしょう。
    首を長くして待っています。