最期のわがまま

「ゲーム作りと運営をする!」


 仁王立ちでそんな宣言をしだした纁(そひ)色の髪の女性に、目下の隈が酷い怒井(どい)悠真(ゆうま)はもう何も話し合わずともすでに度し難く思う。


 この放漫ささえ感じ取れる、自信たっぷりな表情のことだから何を言ったってきっと聞いてくれやしない。

 五歳の頃から変わっていないからこそ言える経験則である。

 そして考える。無視するに越したことはないのだと。


「……ドロップアイテム全部掻っ攫わんでくれ理恵人(りえと)」

「ん。拾えない、自分の愚かさを、呪え」


 気怠げに無慈悲な返しをする長身の男も、十五年来の幼馴染がああ言っても同じく無視を選択。

 つまりは悠真と同じ経験者であるわけで。

 

「おいおい言うたな? じゃあの尻尾俺が剥ぎ取る」

「尻尾斬ったん、俺なんだけど?」

「ドロップアイテム独り占めした自分を呪え」


 こうやって部屋に集まり、日がな一日をゲームしたり駄べったりバカなことして楽しむ。

 そんな贅沢な時間を過ごすだけで良いじゃないか。

 時間と金の浪費が見合いそうにないゲーム作りなんてしてどうするよ。


 ――とでも言いたげな無視を決め込む彼らに、手慣れ感を覚える。

 だが、相手も手練れでもある。

 

「ねぇ二人とも聴こえとぉ!? ゲーム作りと運営をするよデケデンデケデン!」

「悪い。粉振って」

「ちょい待ちぃ」

「ねぇーえっ、ゲーム作り運営デケデンデケデンデケデンデケデンデケデン!!」

「あーもうあえて無視してんの! 決定事項みたく面倒くさいことに巻き込まれそうだから無視してんの。あとなんだそのリズム!?」

「……あーぁ」


 すぐにツッコミを入れたくなってしまうのは、悠真の悪い癖だ。

 彼か理恵人の一方が反応してしまえば、完全に叶(かなえ)の独壇場。話を聞くしかない。

 

「で、何でそんな事したいって思い至った?」

「今年でみんな二十歳になるから!」

「わけわからん……」


 すぐ行動に移そうとするのは叶の悪い癖だ。

 なので、おもちゃの手錠で拘束してもらってから話し合う。本物だと言い聞かせて。

 

「ゴールと目標は?」

「ゴールはおじいちゃんおばあちゃんになっても、ゲームしてバカ笑いしてたい! 目標は七年後の業績時点で十年先も見据えた開発体制を――」

「待てまてまて待て待て! ガチ過ぎるわ。卒業制作か面接で軽く話すレベルかと思ってたぞこっちは」

「ん。右に同じく」


 とどのつまりは何だ、と。

 曲解にはなるが、創業者にして会長という役職を持つほどの起業をして墓場まで一緒にバカ笑いしたい? と。


 経済・経営学部でもプログラミング専攻でもない、彼らは観(・)光(・)学(・)科(・)である事実からして、どうしろというのだろうか。


「喜々(きき)叶さん。俺ら観光学科の素人集団。言ってる意味ワカリマスカ?」

「ミャンマー語で、オネガイシマース。チェーズーティンバーデー」

「ヤーバーデー。でもでも! 私たちもう二十歳になるんだよ、何か大きな事してみたいじゃん。悠真と理恵人と、あたしで」


 彼女の何がそうさせるのか疑問でしかないが、大きな事をこの三人でしてみたいというのには彼らも同意しているらしい。

 社会人になって時間が合わなくなり、今は無縁の人と家庭を築くことだってあるだろう。


 いつしか疎遠になるんじゃないかと考えるのは悠真も理恵人も薄々感じた上で、叶もこれを言葉にしたのかもしれない。


「言いたいことは分かるが……、何の知識も技術も力もなしに、助走つけず崖から飛び込むほど度胸無いぞ」

「さいごのわがままだよ! 今はプログラミング作業も管理も担ってくれる人工知能を、誰でも簡単に使えるようになってるんだしさー」

「最後、つっても……。どうする、悠真」


 嘘とは無縁の、交点を持たず一直線に生きてきたような子だ。

 軽はずみに責任を語ることは絶対しない。

 無茶なお願いではあるが、案外この三人なら面白い物が作れてしまうのかもしれない。


 そうやって何だかんだで、叶の熱意には不思議とそう思わされてしまう悠真と理恵人の方こそ案外甘い性格でもある。

 それに、さ(・)い(・)ご(・)と言ったのは引っかかる節も……。


「わかった降参。今回も折れます」

「わぁーーっは! ホントォ!?」

「正気、か?」

「ただーし条件つき! 一、ソシャゲは無しだ。維持費込みで更新し続ける流行の波(コンテンポラリー)に運営するのが面倒くさい!」

「はっ、仰せのままにぃ」


 叶は自分の意見が通った時点で満足げだ。

 こうなってしまえば、ルールを設けても言い合いにはならないだろう。

 理恵人もクスりと口角を上げ色々察した様子である。

 彼は徐にペンとタブレットを持ち、事項を書き出してくれた。


「二、管理する作品は上限三つまで。その内一つだけを継続的に取り組む。他は販売時点で手を加えないか、負担(コスト)をなるべくかけないものとする」

「ん。生活様式に使える、ツールとゲームを、合わせた定額制(サブスク)とかも、候補?」

「そそ。ポイント還元とかで定着させたりな」

「ふむふむ〜。つまりは、一つの作品を中長期的に開発と運営をするために、ローリスクハイリターンな資金調達を他作品でする、んだね!」

「そういう事。……なんか読み上げた?」

 

 作るもの全てに金も時間も労力も掛けてられない。

 彼らは普通に生まれて普通に生きてきたような、そこら辺にいる――何の変哲もない人(・)間(・)なんだ。

 難しいこととか駆け引きみたいなのは知らん。単純なやり口で進めばいいという精神である。


「三、俺たち自身もプレイヤーでいること。全員が開発も管理も試運転も、会議も反省も楽しむのも! 余すことなく頑張ってこそな」

「おーきーどーきー!」

「どーきー」


 ゴールはジジババになってもずっと一緒に楽しむこと。

 そんなまるで子供が七夕に願うような、具体性の欠片もない夢を語る。


 だがそれでいいと思えるのは、どう転んだって結果は変わらないと知っているからなのだろう。

 どうせこのままダラダラ過ごそうが、なんだかんだずっと一緒だと知っているからなのだろう、と。


「ありがとうな。叶」

「え〜? こちらこそなんだよー」

「――さて。そんなこんなで現状の俺たちが一番優先すべきものってなんだ? せーのっで言うぞ」


 何かを決めて始める時、必ずしている儀式がある。

 最初の一歩目は一緒に。初めて三人でしたゲームの冒頭が元になっている。

 ただし、せーのっと呼吸を揃えはするが、なぜだか若干タイミングがズレてしまうのもいつも通りのことだ……。


「しー、資金調達ー」

「しーきーん、調達〜っ」

「し……資金、調達ー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る