主人公が抱える「偉大な母と比べられる苦悩」と、祖父・雅流風の「大切な者を失いたくない恐怖」の対比が丁寧に描写されており、一気に物語へ引き込まれます。
そして何より、タイトル『いつかあなたに刃を向ける時』というワードが強烈です。この微笑ましい祖孫、あるいは亡き母やまだ見ぬ父の誰かと、いつか敵対し刃を交える運命が待っているのかと思うと、胸が締め付けられるような不穏な切なさが漂います。
冒頭の貧相な夕食をめぐるコミカルな口喧嘩から、徐々に「花の守り人」であった亡き母・三月の英雄譚、そして彼女を失った祖父の深いトラウマへとスライドしていく構成が非常に自然で美しいです。
老いたために孫を追いかけられない祖父の震える手など、心理描写の解像度の高さに胸が打たれます。