失恋した夜、悲劇のヒロインを演じようとする主人公の前に、芝居がかった台詞を吐く謎の美男子が現れる――この設定だけでも面白いのですが、本作の本当の魅力は、彼の大げさすぎる言動と、彼女の本物の痛みとのコントラストにあると思います。あまりにふざけた告白に、思わず拳が出てしまう場面は笑えますし、何度逃げても現れる彼に対して、読者も「またか」と微笑んでしまいます。
特によかったのは、紅茶の香りや眼鏡を直す癖など、小さな手がかりから彼の正体が少しずつ見えてくる構成です。後輩くんだと分かる瞬間も、安易な驚きの仕掛けというより、「ずっとそばで見守ってくれていた人だった」という納得感のある優しい着地になっていました。
少し気になったのは、失恋の痛みを振り返る内省の場面がやや長めで、テンポが落ちる箇所があったことです。とはいえ、全体としては短い時間で読めて、ユーモアと切なさのバランスが心地よい一作でした。「待っていた恋」ではなく「ずっと隣にいた恋」を描く三話構成、続きが気になります。