失恋したばかりの今の私――ときめく余裕も、孤独を捨てる気概もどこにもない。
悲劇のヒロインを演じて、ただ独りだけの夜を駆けていく――それだけでよかった。
そんな傷心さめやらぬ星空の下、甘い言葉で誘い込んでくる美男子が目の前に現れる。
その容姿たるや、月に映える黒マントに妖艶な仮面の施し。
まるで舞台から降りてきた芝居さながらの吸血鬼を思わせる。
しかし、ロマンスも、愛の言葉も、慰めも、何もいらなかった私は動じず、放った拳の一撃で彼から距離を取り再び駆け出していく。
しかし、彼は再度私の前に現れては愛を囁く。
その場限りのレジスタンス。
詰められていくディスタンス。
やがて収束していく真実が、温かな結末を連れてくるのが物語の大筋な流れとなる。
特に印象的だったのが、この物語が二人だけの一つの大きな舞台であること。
そして、その二人がともに演者であることが分かった時、訪れるどこか奇妙で不思議な心地に魅了される。
気づけばたどり着いた終着点という名の本当の孤独。
そして闇夜に差し伸ばした私の手。
誰かと一緒に生きようと願う指先。
涙に抗いながらも求めずにいられなかった、孤独からの求める愛が胸に刺さる。
愛を学ぶために孤独があるのだろうか。
ふとそんなフレーズが浮かぶ。
時同じくして仕立て上げられた三話構成。
三つ目の『お話』はただの物語の枠には収まらない、結末のない新たなストーリーとなろう。
二人にとってのとっておきの恋に、筋書き通りのシナリオなんていらないのだから。
失恋した夜、悲劇のヒロインを演じようとする主人公の前に、芝居がかった台詞を吐く謎の美男子が現れる――この設定だけでも面白いのですが、本作の本当の魅力は、彼の大げさすぎる言動と、彼女の本物の痛みとのコントラストにあると思います。あまりにふざけた告白に、思わず拳が出てしまう場面は笑えますし、何度逃げても現れる彼に対して、読者も「またか」と微笑んでしまいます。
特によかったのは、紅茶の香りや眼鏡を直す癖など、小さな手がかりから彼の正体が少しずつ見えてくる構成です。後輩くんだと分かる瞬間も、安易な驚きの仕掛けというより、「ずっとそばで見守ってくれていた人だった」という納得感のある優しい着地になっていました。
少し気になったのは、失恋の痛みを振り返る内省の場面がやや長めで、テンポが落ちる箇所があったことです。とはいえ、全体としては短い時間で読めて、ユーモアと切なさのバランスが心地よい一作でした。「待っていた恋」ではなく「ずっと隣にいた恋」を描く三話構成、続きが気になります。