第20話:文化祭はポイントが足りない?②

【未来生存率:4%】

【現在残高:320ポイント】


 星降祭(文化祭)当日──。


 校内は熱気に包まれ、サキたちのクラス『メイド喫茶 2-F』も開店の瞬間を迎えていた。


「いらっしゃいませ! ご主人様!!」


 グレーと白のシックなコントラストに、ピンクとライトイエローのリボンが可愛らしく映える。


 委員長とクラスメイトたちが手作りした、クオリティの無駄に高いオリジナル衣装。


「お、おかえりなさいませ、ご、ご、ご……」


 入り口でカチコチに凍り付いていたサキだったが、目の前のお客さんの生温かい笑顔を見た瞬間、心の糸がプツンと切れた。


「やっぱマジで!! 無理ーーーー!!」


 手にしていたケチャップを客の服へ豪快にぶちまけ、サキは全力で教室から逃走した

「サキさん!! 職務放棄しないでください!!」


 廊下にミナトの悲鳴のような怒号が響き渡る。


 一方、厨房──。


「やっぱ、オムライスうめぇ!!」


「えっ、えっ!? 蛍子さん!? それ5番テーブルさんのですよ!?」


 調理係のクラスメイトが悲鳴を上げる。


「いや、毒味? いや、ごめん、味見? ああ! まかないってことで! んー……」


 ゴクリ。


「うまい!!! これは!! 悪魔的!! あんたオムライス作りの才能あるよ! 嫁になってくれええ!!」


「えっ、マジ!? 嬉しい! じゃあ……もっと食べるー!?」


「あ、でもいちごと生クリームも入れたほうがもっとうまくなるよ。」


 メイド服を着た蛍子が提供前のオムライスを豪快につまみ食いし、調理係の生徒を壮大に巻き込みながら厨房を崩壊させつつあった。


「何やってるんですか!! 提供急いでください!!」


 厨房に駆け込んできたミナトが叫ぶ。


「あいあい! 5番と12番さんね!! ハイパー萌キュンメイドの蛍子様が! 今、行きますよ〜★」


「走らないで!!」


 オムライスを両手に爆走した蛍子は、教室の段差に見事に躓いた。


「うわあああああ!?」


 ガシャーン!!


「はぁ……」


 ミナトの胃痛が完全に限界を突破する。


 そんな惨状の中──。


 一人だけ、異次元の神対応を見せる人物がいた。


「おかえりなさいませ! ご主人様」


「こちら『激盛オムライス二郎』になります」


「いってらっしゃいませ、ご主人様♡」


 ヨルだ。


 無表情なのに、完璧で可憐な動作をただひたすらに繰り返している。


【SNSの反応】


『ねこ耳メイドの子、完璧過ぎる』

『あの子のためなら100回通える』

『全学園祭喫茶メイドの最高峰、発見』


 SNSで瞬く間に拡散され、教室の前には廊下を塞ぐほどの大行列が形成されていた。


 実は──。


 ヨルの頭の中は、今夜の後夜祭ライブでのキーボードの自分のパートの事で一杯になっており、


 目の前の客を機械的にさばいていただけなのだが、それが奇跡的に「無口系メカメイド」として大ウケしていたのだった。


(なお、サキがケチャップをぶちまけたツンデレ(?)サービスも、一部のマニアには密かに高評価だった)


「わわ!!! 見て見て委員長!!」


 一人の生徒が、スマホの画面を接客から戻ったミナトに向けた。


「なっ……!?」


【全クラス対抗・売上ランキング速報】


1位 259,700ポイント:メイド喫茶(2-F)

2位 72,670ポイント:爆弾たこ焼きパフェ(1-A)

3位 61,230ポイント:クレープ&茶そば(2-C)


「うちのクラス! ぶっちぎりの1位ですよ!」


「驚きましたね……。ヨルさんのおかげです」


 ミナトは、教室の裏手で休憩しながらスマホでライブの曲の復習をしていたヨルに声をかけた。


「いえいえ〜。皆さんが頑張ったからですよ」


 イヤフォンを外すと、ヨルはニッコリと柔らかく笑った。


「──はぁ」


 サキは校舎の屋上へ逃避し、メイド服のまま、青空を見上げながら炭酸水を一口あおった。


 胸の奥が、なんだかふわふわと浮き足立っている。これは何のせいだろう。


 この慣れないメイド服のせいか? それとも、夜のバンド本番に緊張しているのか。


「いらっしゃいませ〜ご主人様!!」


「!?」


 振り返ると、そこには茶そばクレープを片手にした蛍子が立っていた。


「サキっち、逃げるの早すぎだって」


「みんなには申し訳ないけど、無理なものは無理」


「まあ、いいんじゃん〜?? 私らバンド練しながら準備もたくさん手伝ったし、あとはヨルが稼ぎまくってくれてるよ〜」


 そう言って隣に腰掛けると、蛍子はニコッと笑い、持っていた茶そばクレープを一気に口へ押し込んだ。


「あ、一口欲しかった?」


「いや……そうじゃなくて。何か、感じない?」


 蛍子は「んー」と視線を空に向けた。


「それを青春(文化祭)と言うんだよ、サキっち」


「これが、青春ねえ……」


 ──しかし、サキの予感は、全く別の形で牙を剥いた。


ピコピーン♪


『サキちゃん!! 青春(文化祭)を楽しんでるところ悪いんだけど、学校全域に危険信号を察知★』


「……!?」


 一瞬にして、屋上の空気が冷たく張り詰める。肌を刺すような嫌な気配。


「何なの……こんな時に怪異!? バグ!?」


『いや、これは の●÷Е▲サ● ……。このままだと文化祭……いや、生徒も学校もろとも消え去るね。かなり強い呪力を感知したよ★』


「なんなのよ急に……! バグってんじゃないわよ!」


 文化祭という熱狂が生み出した異常な熱量。そこに引き寄せられるように、旧校舎の裏手にドロリとした禍々しい「何か」が出現していた。


 不気味に蠢きながら、ゆっくりと人形(ひとがた)へ形を変えていく。


 目のある場所には、怪しく蠢く二つの光が灯っていた。


『校舎裏!! 居場所を検知して地図へマージしたよ★ ただ、かなり危険だから逃げたほうがいいよ』


「サキっち? なんか変なのがこの文化祭を壊すつもりなら、それは阻止しなければならない。よね?」


「……っ! 蛍子!! 行こう」


 二人は屋上の扉を蹴り開け、JIMIから送られた校舎裏へと駆け出した。


*


「いってらっしゃいませ、ご主人様〜」


 教室で接客を続けていたヨルが、ふと足を止めた。


 肌を泡立たせるような、気味の悪い異状。


「はい……この感じは──なに?」


 その時、ヨルのスマホに蛍子からのキャッチが入った。


「蛍子ちゃん……!?」


『ヨルっち! 大変! なんか変なの出てきて学校ごとぶっ壊しそう!! 変なのの現在地送るね!』


「変なの……!? 嫌な感じはします、すぐ行きます」


 電話を切ったヨルは、整列する客に向かって深々と頭を下げた。


「委員長、少し出かけないといけないので、行ってきますね」


「うん、休憩してください。本当にありがとうございます。」


「いええ。でも……休憩じゃなくて、戻ってこれるかわかりません。ごめんなさい」


「ええっ、ヨルさん……!?」


 風を切るような凄まじい勢いで教室を飛び出していくヨル。


 残されたミナトは、胸を突く不穏な胸騒ぎに眉をひそめた。


 よく見ると、サキと蛍子の姿もなかった。


(……変な予感がする)


「少し私も外しますね。」


「あ、はいー!ここは任せてミナト!」


 ミナトは回収した食器のトレーを置くと、ヨルを探しに廊下へ出た。


 *


「何あれ……」


 人気のない旧校舎の裏側。ドロリとした人のような形をした黒い塊が、不気味に浮遊していた。


『キタイ……カンキ……ネツキョウ……セイシュンヲ君ニ……!』


「なんか言ってる!?」


「しゃなろーー!! これでもくらえ!」


 蛍子がパステルピンクのバズーカを構え、躊躇なく引き金を引いた。


 ドゴォォォォォン!!!!!


 しかし、黒い塊はバズーカの弾頭を巨大な一本の触手で難なく薙ぎ払い、その直撃波で目の前の木製倉庫が一瞬で粉砕されて消し飛んだ。


『セイシュンヲ……君ニ……!!』


 そこへ、フリフリのメイド服のままヨルが滑り込んできた。


「サキちゃん! 蛍子ちゃん!」


「ヨル……!!」


「あの黒いのヤバいっぽい。けど、なんとかしたい!」


「はい……!! なんとかしてみんなのとこ戻りましょう!」


 黒い塊は不気味な呟きを漏らしながら、触手を振り下ろして地面を削り取ってくる。


「なんですかこれ……強いです! でも……私たちの文化祭を壊すなんて許せません!!」


 ヨルが力強く一歩を踏み出す。周りの空気が物理的にビリビリと鳴動し始めた。


 青い瞳が妖しく紫色に光り、メイド服の裾から六本のしなやかな狐尾が展開される。半妖としての力を解放したのだ。


「おじゃま虫!!! これで!!!! 終われええ!!!!!」


 ──ドゥンッ!!!!!


 大気を歪めるほどのサイコキネシスが放たれた。


 直撃を受けた黒い塊は、無重力の液体のように震え、大きく飛散。その奥から群青色に怪しく光る核(コア)が露出した。


「サキっち! これ使いなさい!!」


 蛍子が厨房からくすねてきた巨大な鋳鉄フライパンを、サキめがけて全力で放り投げた。


「うわっ!? 痛った! なにこれフライパン!?」


「これぞメイドの武器!! 青春のフライパン!!」


 蛍子が誇らしげにグッジョブサインを出してくる。


(今、ヨルが抑えつけているこのタイミングで仕留める……!)


「JIMI! 身体強化とフライパンにエネルギー付与!!」


『ピンクのハート型エネルギー、充填★ 技名を叫んでください。威力が最大99%アップするよ★』


「技名!? 嫌よ、恥ずかしすぎる!!」


『叫ばないと威力が半減してサキちゃんが粉砕されるよ★』


「ぐぬぬぬぬ! 行くわよ……!!」


 ドンッッッ!!!


 サキは地面を蹴り飛ばした。JIMIの身体強化で足元のコンクリートが抉れ、爆発的な推進力で急加速する。


 敵の懐へ一気に肉薄する。


 破れたメイド服の袖。


 一瞬、敵の光と目が合った。


「ヨル! 下がって!」


「はい!!」


『セイシュンヲ……君ニ……』


「青春青春うっさい!!」


「行けええ!!! 萌え萌えバスターーーーーーー!!!!」


 ドゴォォォォォン!!!!!


 ピンクのハート光線を纏ったフライパンが大振りに振り抜かれ、怪異の核を真芯で撃ち抜いた。


 萌え萌えバスターの衝撃で、黒い塊は内部から崩壊し、霧のように霧散していく。


「やった……!!」


「意外にあっけなかったね。最初強敵感あったけどさ」


 蛍子がメイド服についた汚れを叩きながら言った。


ピコピーン♪


『の●÷Е▲サ●の反応消失★ ナイス連携プレイ!』


「ちょっと! こんなところで何してるんですか!」


 ヨルを探して旧校舎の裏手にやってきたミナトが、声を張り上げた。


「サキさんと蛍子さんは、サボってないで早く戻ってください! お客さんが待ってますよ」


「あはは。委員長〜、ちょっとバトってたんだって! 戦うメイドってさ、バエるじゃん?」


「何言ってるんですか……バトルじゃなくて、オムライスを運んでください」


「サキっち、ヨルぴー、戻ろうか!」


「そうですね!」


「えー……委員長。私、ごみの片付け係でいいです。何ならもっと雑用でいいです」


「ダメです。サキさんのケチャップぶちまけ希望のご指名入ってますよ」


「は? マジ無理」


「言ったじゃん。ある意味刺さるって」


 蛍子がニヤニヤしながらフライパンでポンポンと肩を叩いて笑った。


「はぁ。はいはい、行きますよ……」


 四人は並んでメイド喫茶へと歩き始めた。


ピロロン♪


『サキちゃーん。学校の破壊した倉庫と床を修復したよ★ 委員長が来る前に気を利かせて自動処理しておいたよ。300ポイントね!』


「……はぁ。こんな時まで世知辛いな」


『青春は辛い?』


【MISSION COMPLETE】

・の●÷Е▲サ●の撃破

【未来生存率:4%】

【現在残高:20ポイント】

【評価】

B

【評価コメント】

文化祭はまだまだ続きます!

ライブも頑張ってね★ 応援してます♪

最後まで楽しめると、いいね★


「地獄かよ……」


【ライブ開始まで、あと4時間】

(第20話・完)


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