電柱に逆さまにしがみつく謎の男。その時点で十分おかしいのに、語りかけてくる内容は妙に現実的で、新生活への不安や心の準備といった誰もが抱える感情を突いてきます。
「頭がおかしい人だ」と思いながら読んでいたはずが、最後の一文で一気に足元をさらわれました。
男が空へ飛んでいき、「私も落ちていった」。
この一行で、それまで見えていた景色がまるごと反転していきます。何が起きたのかは明確に語られないのに、不思議と情景だけは鮮明に浮かぶのが見事でした。
そしてラストの「晴れてりゃよかったのに。」が絶妙によかったです。諦めにも後悔にも聞こえ、どこかユーモラスでもある。その余韻のおかげで、読み終わったあとも何度か冒頭を読み返したくなりました。
短編だからこそ成立する、不条理と叙情が綺麗に噛み合った作品です。読後に少しだけ空を見上げたくなりました。