第30話
文化祭が終わってから二ヶ月が経った頃、星桜学園は冬の気配を少しずつ感じ始めていた。
白峰葵は朝の教室で、自分の席に座りながら窓の外をぼんやり眺めていた。
朝早く登校する癖は相変わらずで、教室にはまだ数人しかいない。机の上には、みんなからもらった小さなメモや文化祭の記念品が置いてあり、時々指で触れては微笑む。
最初に教室に入ってきたのは橘凛だった。いつものように鞄を置くと、葵の隣に座って軽く肩を突く。
「おはよう。今日も早いな……寝不足じゃないか?」
「凛ちゃん、おはよう! ううん、大丈夫だよ。凛ちゃんと顔合わせると、朝から元気が出るよ」
葵の笑顔に、凛は耳を赤くして「バカ……お前がいるから、俺も早起きしちゃうんだよ」と小さく呟いた。二人は自然と並んで、昨日の宿題の確認を始めた。
少し遅れて小鳥遊みうが息を切らして入ってきた。みうは葵を見つけると、すぐに駆け寄って隣に座る。
「葵さん、おはようございます! 朝から会えて嬉しいです……今日も一緒に昼休み過ごしましょうね」
「みうちゃん、おはよう! もちろん。一緒にいると楽しいよ」
葵がみうの頭を撫でると、みうは幸せそうに寄りかかってきた。
白銀麗華は優雅に教室に入り、葵に軽く会釈をした。
「葵さん、おはようございます。今日の生徒会資料、確認しておきましたわ。後で一緒に目を通しましょうか?」
「麗華さん、おはよう! いつもありがとう。麗華さんがいると、安心するよ」
麗華は葵の言葉に静かに微笑み、席に着いた。剣崎楓は無言で教室に入り、葵に軽く会釈をした。葵が「おはよう、楓ちゃん! 今日も朝練頑張ってた?」と声をかけると、楓は小さく頷いた。
「……お前がいるから、頑張れる」
霧島紫苑は最後に入ってきて、皆に柔らかい笑顔を向けた。
「皆さん、おはようございますわ。今日も良い一日になりそうです」
朝のホームルームが始まる直前、六人は自然と葵の周りに集まっていた。クラスメイトたちも「白峰さんたち、相変わらず仲良いね」と微笑ましそうに見守っている。
授業中も、葵は時々周りのみんなをチラチラ見ては、心の中で思う。
(みんなと一緒に過ごす朝、ほんとに好きだな……これからも、ずっと続けばいいのに)
昼休みになると、いつものように六人で集まって弁当を食べる。葵が作ってきたお弁当をみんなで分け合いながら、最近の学校の話や冬の予定で盛り上がる。
凛が「お前、冬休みは何するんだ?」と聞き、みうが「葵さんと一緒に過ごしたいです!」と甘え、麗華が「皆で集まる機会を作りましょう」と提案し、楓が無言で頷き、紫苑が皆の想いを静かに見守る。
放課後、六人は一緒に校門に向かって歩いた。冬の風が冷たい中でも、みんなの声が温かい。葵はみんなと並んで歩きながら、心から言った。
「毎日、みんなと一緒にいられるの、ほんとに幸せだよ。これからも、よろしくね」
その言葉に、五人はそれぞれ違う温度の視線を葵に向けた。
凛が「当たり前だろ……」とぼやき、麗華が「葵さんと過ごす時間は、私の宝物ですわ」と微笑み、みうが腕にしがみつき、楓が肩を寄せ、紫苑が意味深に微笑む。
冬の足音が近づく中、六人の影は一つに重なっていた。
まだ、葵は気づいていない。
この日常の積み重ねが、彼女と五人の少女たちの関係を、静かに、でも確実に次の段階へと押し進めていることを。
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