第25話

 文化祭が終わってから少し落ち着いたある放課後、白峰葵は小鳥遊みうと二人で学校の図書室にいた。


 みうが「レポートの資料探しを手伝ってほしい」と葵にだけこっそりお願いしてきたのがきっかけだった。


他のメンバーには「少し遅くなる」と伝えて、二人きりで図書室の奥の席に座っていた。夕陽が窓から差し込み、本棚の影が長く伸びている。


 葵はみうの隣に座り、指定された本を探しながら優しく声をかけた。


「みうちゃん、このテーマのレポート、大変そうだね。どんな内容を書く予定?」


 みうはノートを広げながら、すぐに葵の腕に軽く寄りかかってきた。ふわふわの髪が葵の肩に触れる。


「葵さんと一緒にいると、集中できるんです……。テーマは『友情と絆』なんですけど、最近文化祭で葵さんと過ごした時間が、すごく参考になって……」


 みうの声が少し甘く、頰が自然と赤らんでいる。葵は全く気づかず、微笑みながら本棚から一冊の本を取り出した。


「友情と絆か……いいテーマだね。私も文化祭でみんなと一緒に頑張った時間、ほんとに大切に思ってるよ。特にみうちゃんは、いつも明るくて元気くれて……助けられてばっかりだったよね」


 葵が本をみうに渡しながら、みうの頭を優しく撫でると、みうはびくっと体を震わせて顔を真っ赤にした。


「葵さん……その手、温かいです……。私、葵さんのこと、ほんとに大好きなんです……」


 みうの声が小さく、震えていた。

葵は「私もみうちゃん大好きだよ。かわいい後輩で、毎日癒されてる」と自然に返した。みうはさらに体を寄せて、葵の腕に顔を埋めるようにした。


 図書室の静かな空気の中で、二人の距離が自然と近くなる。みうは本を開きながらも、視線は葵の横顔に釘付けだった。


「葵さん……文化祭の時、葵さんに支えてもらった瞬間、ほんとに心臓がどきどきして……。私、葵さんのこと、ただの先輩じゃなくて……もっと特別に思ってるんです」


 みうの告白に近い言葉に、葵は少し首を傾げた。


「特別? うん、私もみうちゃんは特別だよ。ドジっ子だけど一生懸命で、かわいくて……一緒にいると楽しいよ」


 葵の純粋な返事に、みうは胸をぎゅっと押さえて小さく息を飲んだ。期待と照れと、少しの切なさが混ざった表情だ。


 二人はそのまま、資料を探しながらも時々手を重ねてページをめくったり、みうがわざと近くに寄ったりした。


葵はただ「みうちゃん、集中してね」と優しく声をかけ、みうのドジなところをフォローし続ける。


 夕陽が沈みかけた頃、みうが本を閉じて葵の方を向いた。


「葵さん……今日、二人きりでよかったです。もっと、葵さんと二人で過ごしたいな……」


「うん、私も! また誘ってね、みうちゃん」


 葵が笑顔で言うと、みうは幸せそうに葵の腕を抱きしめた。離れたくない、という気持ちが伝わってくる。


 図書室を出る頃、外はすっかり暗くなっていた。二人は校門まで並んで歩き、みうは何度も葵の袖を掴んでは名残惜しそうに手を振った。


 一人になった葵は、帰り道で今日のみうの言葉をぼんやり思い返していた。


「みうちゃん、特別って……かわいい後輩として、だよね」


 まだ、葵は気づいていない。


 みうの想いが、ただの後輩の域を超え始めていることを。


 そして、それがこれからの二人に、どんな甘い変化をもたらすのかを。

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