出だし――「チェロが死ぬわ」という物語の始まりで、レビュータイトルのように確信しました。
そしてレビュータイトルの通り。ラストどころではありません。わりともうずっと、考えうる結末にずっと胸が詰まってました。涙腺緩い方は涙がぼろぼろ零れちゃうかも。
本作は、アメリカ在住の少年が、かつて飼っていた老犬チェロと今現在チェロを世話する従妹の少女と再会するというお話。
世界観としては近未来で、
突発的に眠るように死亡する「停止症」という病気が蔓延し、いわゆる「生き物」が激減した世界。
主人公の養父は、そんな世界に希望をもたらす「レプリカ」という疑似生命を研究・実現した研究者さんです。
そして主人公はもちろんアメリカ少年なのですが、養父と同じく「レプリカ」を研究する若き研究者でもあります。天才少年ということでしょう。
ちなみに、停止症とレプリカ自体は作品に登場しません。中編ですので、老犬チェロを軸にしたボーイミーツガールに注力なさったのでしょう。もし本作が長編なら、あるいは続編があるならばきっと深くドラマに関わってくるはず。なんていう想像をしてはしまいますが――生き物の数が減ったという事実と、レプリカという選択肢があることがこのお話に深みを作り出していると思います。だから余計な設定ではない。無くてはならない設定。ですが、それについては後ほど。
レビュー者は物語をリズム感とか、色とか光とか背景音で捉えるタイプなので、まずはその目線で情景描写・感情描写についてお話したいです。
まずは情景描写。
季節は夏ということで、白い入道雲に青い空、神社には濃い緑と白い石段、木陰はゆらゆら、きらきらと葉っぱの隙間から陽光が射し込んでいる……だいぶレビュー者の脳内補正入ってますが、きっとこんな光景のはず。
とにかくそんな日本の夏の景色の中を老犬(雑種の大型犬)と少年が歩き、ともに寝そべりながら読書をする、という光景は美しく読み手をうっとりさせます。海辺のようなので、生温い風は潮の香りの入り混じったもののはず。神社であればさわさわと木の葉の揺れる音がするでしょう。
ただし、前述したとおり生き物が減っている世界なので、蝉の声はしても小さいかもしれない。生き物に樹木が含まれていたら、樹木の総数も減っているかもしれない。三万文字以下の中編で、かつ主人公の研究者らしいドライな思考視点のため多くは触れられていませんが、色々と考えてしまいます。
ということで心情描写の話に移ります。
心情描写はドライです。
前述した通り、主人公は研究者さん。なので、どこか分析的というか、感情的なところはあまりない。それが、このお話にとても味を出していると言えるでしょう。数が減っている生き物の死を間近にしている、という感情を掻き立てられる状況の中で、どこか冷たく、乾いた感じのする主人公の思考が、レプリカという代用もあるという世界観にマッチしている、そんな気がするのです。
会話自体もどこかドライ。
主人公も従妹もあまり賑やかしいタイプではないためでしょう。だらだらくどくどとせず、たんたん、としたリズム感で会話が進む。このテンポが淋しげででもどこか優しい空気感を邪魔しないでくれている。そんな感じました。
これらの情景・感情描写をする際の言葉選びに対しては、とてもお洒落だと思いました。
アメリカ少年ということで、入り混じるティーンエイジャーやランチ、オースターの小説のようなアメリカを思わせる言い回しが入り混じっていてどこか都会的な色味を出しています。
かと思いきや従妹が文学少女ということで、島崎藤村の詩を引用し、重厚さ?と言いましょうか。ふたりのドライなようで、どこか深みのあるゆったりとした時間を感じさせてくれます。
やったら描写のレビューが長くなってしまいましたが。肝心の物語についてここから触れさせていただきます。
前述した通り、生き物が減り、レプリカという選択肢がある世界です。本物の生き物には希少価値がありますが、その一方で「軽く」もある。困ったらレプリカがいる。とてもあべこべな状況です。加えて主人公はレプリカの第一人者でもある。その前提条件の中、主人公と従姉は老犬の死を目前に感じているのです。
初めは淡々と、ドライに物事を捉えていた主人公が、老犬と従妹と触れ合うようになって、どこか感情的なものが入り混じり始める。その過程の描写はこの後にまつ結末へ近づいていることを予感させて、読者をいっそう切なくさせます。
そしてラスト。
従妹の終わりある命に対する葛藤に、読者は胸をギュッと締め付けられることでしょう。内容を書くとネタバレになるので避けますが、年老いた知人や家族、ペットがそばにいる方であればあるほど、この葛藤に共感を覚え、胸が苦しくなるはず。
主人公はレプリカ、命の代替品の第一人者です。
なので、命に終わりのない代替品を作り出すことは容易です。ですがレプリカは、老犬チェロの代替品にはならない。別の存在なのです。軽いようで、重い。いいえ。本物の生き物は希少価値の高い存在でもなければ、代わりがいる軽い存在でもありません。値段で測れるようなものではない。かけがえの無い存在なのだと、本作を通して感じさせられました。
長すぎる駄文失礼しました。
とにかく、お勧めです(急に雑になるな)。
夏の季節を舞台にしていますので、今(レビュー日が2026/8/19)読むにぴったり。未読の方はハンカチ片手にぜひ、ご一読ください。