正直に告白すると、あらすじを読んだ時点では、この作品がどんなジャンルなのか判断に迷いました。「潜入先のボスに気に入られました。なお、正体がバレたら即死です」というコメディ的な煽り文、「ブロマンス」という言葉、"×"という記号。これらが、実際の本文とはかなり異なる印象を与えてしまっていると思います。
読んでみると、これは抑制の効いた、本格的なハードボイルド・クライムサスペンスでした。「軍用ブーツの底には、ここへ来るまでに踏み抜いた時間がそのまま沈殿していた」という一文に象徴されるように、感情や経験を説明せず、物質的なディテールで語る筆致が、全編を通して貫かれています。格闘描写も同様で、必殺技を叫び合う派手さではなく、痛みの質感や、身体が動かないまま続く会話劇の緊張感で魅せる。これは今日読んだ作品の中でも、文章技術という点で頭一つ抜けていました。
レイとジェイドの対峙も見事です。「証明ってのは売り込む側がするもんだ。だが、俺は営業に来たんじゃない」という台詞、そしてサングラスを外す演出。説明台詞に頼らず、行動と間だけで二人の関係性の変化を伝えきっています。
一点だけ、あえて辛口な指摘を。単身で縄張りに乗り込み、拳銃まで奪うというレイの接触方法は、率直に言ってリスクが高すぎるように見えました。並のマフィアなら問答無用で殺されてもおかしくない状況です。ただ、これはおそらく偶然や無謀さではなく、計算された賭けだったはずです。ジェイドが求めているのは忠実な犬ではなく、彼と同じ危険な牙を持つ獣だと、レイは見抜いていたのではないでしょうか。もしそうであれば、「この男が求めているのは、忠実な犬ではない。彼と同じ、危険な牙を持つ獣だ。だから、犬のようには近づかなかった。あえて、縄張りを荒らしてみせた」というような一文をどこかに加えるだけで、無謀に見えた行動が、精密に計算された戦略として、はっきりと読者に伝わると思います。
最後に、あらすじについて僭越ながら一つ提案です。この作品の魅力を、コメディ的な煽り文やブロマンスという言葉ではなく、本文にすでにある言葉で伝えられないかと思いました。
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二匹の獣が、対峙する。
FBI潜入捜査官レイ・カーティスは、武器密輸組織「サリヴァン海運」の懐深くへ、単身乗り込んだ。
冷酷な若頭ジェイド・サリヴァンは、その手腕を見抜き、レイを己の右腕として迎え入れる。
だが、それは偶然などではなかった。
幾度の死線を潜り抜けるたび、二人の間には、言葉を超えた信頼が積み上がっていく。
正体が露見すれば、その瞬間に終わる関係。
豪雨の埠頭、そして互いに向けられる銃口。
騙し、騙されながらも惹かれ合う二匹の獣が、最後にたどり着く場所とは。
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抑制と間で魅せる、稀有な筆力を持った作品だと思います。埋もれさせるにはあまりにもったいないので、多くの人に届いてほしいです。