領主襲撃
ディングルの中央にある簡素な城。その中に領主が執務を行う部屋があった。
「ったく…急遽仕事することになってしまった」
「やれやれ。あなたも大変ね」
アズサが部屋に入ってきてその彼をねぎらう。
「しかたねえだろう。時間は常に捻出して、勘を鈍らせないようにしているが今回は特別すぎる。前世があるとはこっちも知っていたが…それよりどうやって入った?」
「私の力でね」
ルナがアズサの肩に乗る。
「久しぶりね。あなたも領主になっていたなんて知らなかったわ」
「おう。久しぶりだぜ。おかげで長生きしている」
ルナの言葉に男も笑っている。
「やっぱりあの影響がでかいのね」
「仕方ねえさ。まあ、こちらは長くなった人生を全力で楽しむだけだ」
「ごめんね。仕事増やしちゃって」
「いいぜ。こちらとしても恩返しにもなる。それに…すげえ人物を紹介してくれたしな」
ルナの言葉にその領主と呼ばれた男は笑う。
「あいつは本物の英雄――勇者だ。その助けとなるのなら本望だぜ。それに…お前らの危機だしな」
領主は手を止め、ルナを見る。
領主にも妖精族の危機は伝わっていた。
聖獣といっていい妖精族。それをさらい、危険な魔術の為の生贄にする。そんな暴挙が行われようとしていたのだ。
「恐らく黒幕にいるのはガレリア帝国と思うぜ。あいつらの戦術と妖精族を狙うことがあまりにも一致している」
「・・・件の領土拡大を進めている帝国か」
ルナもその存在を知っていた。
「どうやら私達の相手は強大のようね」
朧げに戦うべき相手が見えてきた。そういった意味でこの街に来た一つの目的は達成したと思われる。
味方も増えた。
特に信頼している二人にルナが大切なことを教えることにした。
「…まだみんなに話していないけど、世界中の妖精種たちがここに集まってきているわ」
それはとんでもないことである。
「えっ?」
「そりゃどういうことだい?」
妖精族は世界中のあちこちに小さな隠れ里を作って暮らすか、かつてのルナのように世界中のあちこちを旅していることが多い。
基本的に自由を愛しているからだ。
それが集結している。
そのおかげで妖精の里はすでに街といっていいほどに規模が拡大しつつあったのだ。
帝国の妖精族の捕獲と関連があるのだろうか?
二人のそんな疑念にルナがそれもあると前押しをした上で重大な事実を教える。
「私たちの王様が生まれたから」
ルナの言葉に二人は首をかしげる。
「実は私たちの加護を・・・」
そしてルナは語る。
妖精たちの加護を一心に受け取ったミノさんが妖精王となったことを。
もちろんミノさん本人は無自覚である。
そのせいで何かとんでもないギフトに目覚めつつあると。
そのギフトは想像を絶するレベルなくらい強大であることは確定している。
未覚醒の漏れ出た恩恵で現在森が拡大中。
土地そのものも妖精達が暮らすのに快適な場所となっていることも。
『・・・・・・・・』
その言葉に絶句する二人。
「・・・あなたたちやってくれたわね。妖精王って神話しか出てこない存在よ」
「規格外にもほどがあるぜ。ったく、どんな御仁だ」
神話にしか出てきない伝説の妖精王。その爆誕を知るものは本人も含めてほとんどいない。
「もっともその返礼で聖者の加護をみんなもらったんだけど。その一部に明らかな変化があったの。それがこれ・・・」
一部メンバーにはある異変が起きてきた。
ルナは額にある輝きを見せる。それを見た二人は目を丸くする。
『それって・・・聖痕!?』
「うん。私達にもついちゃったの」
一部メンバーに聖痕が発現したのだ。
「でも全部じゃないのよね?なぜルナたちだけ?」
「本当だな・・・」
色々と情報量の多さに眩暈を覚える二人。
その理由に関してルナは視線を上にあげて何かを思っていた。
それを見逃さないのが二人である。
「・・・ルナ。何か心当たりあるのね?」
「えっ?」
「相変わらずわかりやすいやつだな」
二人はルナの仲間である。それゆえにルナのこういった態度をすぐに見抜く。
何か重要な心当たりを隠していると。
もちろんどんな仕草で見抜いているのか二人は教えていない。
そのほうが今後も色々といいと判断してのことだ。
「いや・・・そのね」
「確信しているけど話していいことかどうかはわからないってことでしょ?」
「その前置きがあるなら話してくれい」
「そっ・・・その・・・」
だんだんルナの反応が変わっていく。
顔を赤らめ、もじもじしだしたのだ。
なんでそんな態度をとるのか?それに疑問に思った彼に対して、アズサは何かにきづいたようだ。
「まさかあなた・・・ミノ君のこと・・・。えっ、それならつまり・・・寵愛を・・・」
「あうう・・・」
その気づきと妖精のことで自身が持つ知識と組み合わせ、寵愛というある重要な事実に行きついていた。
「なるほど・・・ねえ」
アズサは察し、話を続けようとした。
ルナはある方向を見ながら自身の影から斧を引っ張り出してきたのだ。
人間でいうところの手斧。片手で扱えるサイズである。
それを見てアズサも彼も構える。
「来るわよ。どうやら今度はここを押さえてからの進攻に切り替えたみたい」
窓を突き破って無数の黒ずくめの男たちが突入してくる。
「・・・眠りなさい」
ルナの言葉とともに突入してきた相手が一斉に倒れる。
倒れた男達を見下ろしながらルナはつぶやく。
先ほどの動揺は嘘みたいに消えていたのだ。
「こんな雑魚ばかりではないでしょう。影に隠れていないで出てきなさい。私も似た属性だからごまかせないわよ」
ルナの言葉に合わせて倒れた男たちの影から現れた男。
「妖精の魔法ってやつか?やってくれる・・・だが、それだけ強力ならいい捧げものになるというもの」
男が両手を合わせるようにたたく。その男の影が揺らめき、そこから骸骨が次々とあらわれたのだ。
骸骨だけではない。半透明の幽霊のようなものまで現れたのだ。
「・・・アンデット。前に里を襲った連中の仲間ね?」
「ええ。私の仲間がどうなったのか知りたいのですが・・・」
ルナは斧を肩に担ぎながら語る。
「あなたたちのもとに帰ってくることはないと思うわ」
正直にルナは答える。償いの旅に彼らは出ているのだから。
ただし、これだと違う意味にも聞こえなくもない。
「…それなら敵討ちといきましょうか。いきなさい、領主とギルドマスターもまとめて」
「なめてもらっちゃ困るわね」
「おう」
ルナの時間稼ぎのおかげだろうか。
二人も戦闘準備をすっかり整えていた。
二人は大変息の合った様子で各々の武器を構えていた。
アズサは槍。
領主と呼ばれた男は剣である。
「アンデットは正直苦手だけど、何とか・・・」
「まったく・・・水臭いよ」
そんな三人の間に光が舞い降りた。
宙をぷかぷか浮いてやってきたのは桜色の栗鼠である。その栗鼠がまばゆい光を纏っていたのだ。
そんな栗鼠が茶目っ気たっぷりにアズサ達に挨拶してきたのだ。
「どうもです!!ルナの番となりましたミコです!!」
「えっ・・・ええ・・・」
「おう・・・」
「ルナの友達、仲間と聞いて挨拶に来ました!!」
「あんた・・・こんなシリアスな状況で呑気に・・・」
ルナも呆れ果てる場違いな明るさであった。
だが、その理由もわかっていた。
「だって・・・もうあちらは近づけないから」
「そりゃねえ。あんたは・・・」
『ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
ミコの光を浴びて消滅していくスケルトンや幽霊たち。
『・・・・・・』
その光景を呆然と見ている二人。
「アンデット・・・特攻だもんね」
「なんだお前は」
死霊が消滅していく様を見て男が剣を抜き、ルナに切りかかろうとして・・・閃光が走る。
その閃光で男の剣の刀身部分の大半が蒸発していたのだ。
『・・・・・・』
「ルナに手を出すのならこっちも黙っていないから」
剣を一瞬で蒸発。すさまじい熱量に固まる男。
「・・・熱を持つ光。ねえ、ルナ。ミコちゃんの能力ってまさか・・・」
「ええ。私が月なら、あの子は太陽」
ミコが警告のためにはなった光で男の足元の床がどろどろに融解。
「伝説の天体属性・・・」
世界には通常の属性のほかに複合属性として三つの天体属性がある。
月、太陽、そして星。
神秘的な力を操る月。そして、圧倒的な聖なる力と光、そして熱を操るのが太陽。
アンデットにはあまりにも天敵すぎた。
そして月と太陽は二つで一つ。番となったのも運命的なものを感じさせた。
「あんたら・・・対なのね」
『ええ』
二人はそういって相手と向き合う。
『来なさい』
「何をしている」
遅れを察したのだろう。男のそばに別の男たちが転送してきた。
影に紛れるような濃い藍色の皮鎧と兜。そのから見える顔には右目にかけて傷が縦に走っていた。
その体格は大柄でありながらしなやか。虎のような男であった。
「・・・妖精族だと?」
「領主と知り合いだったみたいで。月と太陽の天体属性持ちにこちらの死霊が」
予想外の戦力に失敗。それにあとから現れた男が忌々しそうに告げる。
「・・・忌々しい。我らがお前らを本格的に狩ろうとして動き出したのに」
男の言葉でルナとミコは確信する。
間違いなく彼らの狙いはこの街だと。
ここを拠点に戦力を集めて一気に妖精たちを狙おうとしていることに。
それだけ彼らにとって妖精の存在は大きなものだった。
「動き出して正解ってことね。これってあれの導きなのかな?」
「多分ね、でも間に合った。なら感謝するほかない」
聖痕の導きでこの街の危機に自分たちが立ち会ったことに気づく二人。
ミノさんが多くの事件にかかわる理由は聖痕の導きなのだろうとも。
「でもまいったね。あいつ・・・・」
「ええ強いよ」
二人は強くなっていた。だからこそ感じ取る。
対峙している相手の強さに。
だが、それは向こうも一緒だった。
「戦闘ができる妖精族。厄介なものだな」
男が深く呼吸する。それとともに感じられるプレッシャーが増大する。
「気術による身体強化」
「でも、私たちも知らないとでも?」
二人もまた呼吸を整える。それと共に身体能力があがる。
「妖精族が気術を使うか。いったいどれだけ・・・っ?!」
二人の呼吸を見て男はあることに気づく。
二人が全く同じ呼吸をしていることに。
「いいだろう。その力見定めてもらおうか」
男の合図とともに窓を割って入ってくる男たち。
窓だけでない。ドアからも彼らは入ってくる。
四人は囲まれる。
しかも入ってきた男たちも呼吸を整え、その力をさらに上げてきたのだ。
「文字通りの精鋭ってわけかい。こりゃ光栄だね」
だが、四人は諦めていない。
「わが名はガレリア帝国 影虎隊 第三部隊の長――ガレルだ。冥土の土産に覚えておくがいい。ディングル領主――アノン・グラトリ―辺境伯」
その名を呼ばれたアノンは大剣を構えて不敵に笑う。
「へっ、その名を知っていることは相当下調べはやっているわけだな」
「それと冒険者ギルドマスター・・・アズサ。君も我々の排除対象だ」
「やれやれ。本当にあの子が来てから一気に事態が動き出すわね」
アズサはあきれ果てていた。
「・・・私としては不本意なのだがな」
ここにはいない誰かの声にガレルはとっさに背後を見る。
剣を背後に向けて薙ぎ払いながらである。
だがその剣が破裂したように粉々に砕け散ったのだ。
その光景に目を丸くするガレル。だが、その背後にいた何かが掌を押し当てようとしているのを見て無理やり、足腰の力を変えて飛び退いた。
飛び退いたガレルが見たのはいつの間にか一斉に倒れた部下達の姿。
自己強化したはずの彼らが気絶していたのだ。外傷など一切なく。
「いったい何が・・・ぐふっ!?」
そして、ガレルも腹に衝撃が走り膝をつく。
吐血。
「なん・・・だと?」
「やれやれ。中途半端に伝わってしまったか。すまなかったな」
命中したはずがないのに謎のダメージ。それも彼が戦闘続行不可能なほど。
何しろ内部に伝わった衝撃で、立ち上がれないのだ。
「ちぃ・・・撤退か」
その言葉ともに倒れた者たちも姿が光に包まれ消えていく。
彼もまた光に包まれていく。
だが消えるまでに時間がかかるようでガレルは焦った様子で謎の一撃を放ってきた相手を見る。
睨みつけるように見て、ガレルのほうへと注意を向けるように。
そのにらみつけた視線がとらえた相手。
それはミノタウロスであった。
彼は報告を思い出す。
謎のミノタウロスに妖精族たちを奪還されたと。
「まかか・・・お前が・・・」
相手は強い。それは間違いなかった。
だが、みすみす敵を逃がす真似をするのはなぜか?
「・・・部下を大切にしているようだな」
自身がおとりになっていることをミノタウロスは見抜いていた。
「そんな漢を死なせたくないのでな。ガレル殿」
「・・・ッ」
粋な漢といえばそれだけだった。だが、彼はそれだけの実力を持っていた。人を見る眼力もあった。
まさに王者であった。
「なるほど・・・これは・・・」
すぐにガレルは理解した。
目の前のミノタウロスは確かに普通ではない。
彼らの主が脅威を覚えるのも無理ないと。
「私の名前はミノ・・・ミノタウロスのミノという」
「いや、ミノタウロスだからってミノは安直じゃないのか!?ぐほっ」
思わずツッコミをしてしまうガレル。
その後に思い出したかのように腹の痛みがやってきて呻く。
「名前に関しては本当にたまたまなんだがな・・・」
転送のために消えていくガレル。
「できればあんたとは二度と敵対したくない」
戦闘にもならない静かな蹂躙。そして、威風堂々とした態度。
見逃されたのは本当に偶然だとガレルは理解していた。
次あったらわからないと。
そのためもう遭遇することは避けたいと思っていた。
「そうだな。だがまた出会うことになるだろうな」
その心情を察したのかどうかはわからないがミノさんは言う。
「どのような形であれこの時点でお前とは縁が生まれた。また会う日を楽しみにしている。私にはそう言った力がある故にわかるのだ」
「ええ・・・」
逃れられない何かに絶望したような表情のままガレルは消えていく。
そのあとでミノさんはアノンに視線をやる。
「改めて挨拶をと思ってな。差し入れも用意したのだが・・・」
その手には包みがあった。
「・・・そのおかげ助かったぜ。あいつらマジで精鋭だったみたいだしな」
アノンは深くため息をつく。
彼らが対峙した相手は隊長であるガレルだけはない。その部下すらも気術をつかっていたのだ。相当な練度といえる。
それらが一瞬で気絶。戦闘力を奪ったのだ。
「・・・一体どんな手品だ?」
「何、震動拳の応用みたいなものだ。また後程機会があれば教える」
ミノさんはそこで会話を区切る。
「どうやら相手は妖精の里を狙うためにこの街を拠点にするつもりのようだな?相当規模の大きな相手のようだ」
状況を的確に理解している様子。そんな彼の両肩にルナとミコが乗る。
「ええ。そして、敵が判明したわ」
「ガレリア帝国。最近あちこちに侵攻している国だよ。私達を生贄にするのも・・・」
規模が大きいのも納得である。相手は国。それも大国なのだ。
「そうか・・・仕置きの対象がわかったということだな」
ミノさんは笑う。その笑みに皆が息を飲んだ。
確かに笑っている。牛の頭でどうやって笑っていると理解できるのかわからないが、笑ってはいたのだ。
ただ、その目は笑っていない。
その光景に皆が息を飲む。
「…安心しろ。怒りに飲まれないように意識してこういう時笑うようにしている」
それは彼なりの経験からくる癖のようなものであった。
「前世で怒りを見せて子供たちを怯えさせたことがあってな。だから怒りの時に笑うようにしている」
「あ~・・・」
「なるほどねえ・・・」
『・・・』
彼なりの気づかいだとわかる。わかるのだが・・・
「これなら怖さも半減とは言わないがましになるだろ?」
『・・・・・・』
「・・・あれ?」
皆は優しい。あえて無言でいることにした。
笑っているのに逆に怖いという素直な感想に蓋をしたのだから。
色々と追及したいミノさんだったのだが、彼も優先順位をきちんと理解していた。
「・・・・・・それよりも街全体が狙われている可能性があるな。私も動こう」
「すまねえ。こっちも兵を招集してから向かう。本当はすぐに向かいたいが」
アノンの言葉にミノさんは肩に手を置くことで答える。
「安心しろ。その間は持たせる」
「私も冒険者達に緊急依頼を出す。だから・・・」
「なら二人の護衛を・・・まかせていいか?」
『あいよ!!』
ミコがアノンに、ルナがアズサにつく。
「頼む」
その言葉ともにミノさんの姿が消える。
初めからそこにいなかったかのように皆の視界から消えたのだ。
『・・・・・・』
その光景に無言で固まるアノンとアズサ。
アノンに至っては何度も目をこすってみるが、誰もいない。
アズサはため息の後、苦笑していた。
ルナがぼやく。
「ミノさんの隠形。本当に謎よね?」
「弟子であるポルもすごかったけど、一体どんな経験を経ればこんな意味不明な技を身に着けるの?」
「ほんと…すげえ御仁だぜ」
「私もそうおもう」
あきれつつも四人は動き出す。
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