第7話

宰相の屋敷の地下、そこには王都の地図ではなく、王国の歴史そのものを捻じ曲げるような「呪われた系譜」が記された書庫があった。

ジンが持参した帳簿をリュカが突きつけると、宰相は青ざめた顔でこう呟いた。

「……お前たちには分からんのだ。この王国の地下に眠る『古い澱(おり)』が、どれほど巨大か。私ごときが操られているに過ぎぬというのに……」

宰相が怯えながら指差したのは、書庫の奥深くに鎮座する、王家の紋章すら塗り潰された「漆黒の玉座」の意匠図だった。かつて王を退位させ、裏から国を操り続けてきた影の統治者――『古き血族』の存在。

リュカは、その真実を聞いても表情一つ変えなかった。それどころか、彼は宰相の首元を掴み上げ、壁に叩きつけると、蛇のような冷酷な笑みを浮かべた。

「面白い。……だがな、宰相。俺が王都で『悪魔』と恐れられている理由を、お前は勘違いしている」

語られざる「悪」の記憶

ここでエレオノーラが、胸を痛めるような視線をリュカに向けた。彼女は知っている。リュカが過去、王都を守るために行った「最悪」の手段を。

それは、敵対する一族を根絶やしにする際、リュカが敵兵だけでなく、その家に仕えていた無関係な家臣や使用人たちをも、「芽を摘む」という理由で冷徹に排除した事件だ。

「慈悲」という言葉を捨て、効率と完全なる滅却を求めたその姿は、当時の目撃者たちに深いトラウマを植え付けた。リュカにとって、正義のためにはどんな非道も厭わないという歪んだ合理性が、今の彼を最強の「撃滅者」たらしめているのだ。

「俺は、お前たちが恐れる『古き血族』だかなんだか知らないが……俺の邪魔をするなら、王だろうが神だろうが、まとめて肉塊に変えるまでだ」

リュカの殺気は、壁の向こうに潜む『古き血族』の刺客たちにまで届いたようで、屋敷の隠し扉から次々と異形の騎士たちが現れた。彼らは人間ではない。古代の術式で強化された、意志なき殺人人形たちだった。

「隊長、数が多すぎます。会計が合いませんね」

ジンがそろばんを弾く。その弾き音が、空間の理を歪める結界のコードを破壊する。

「エレオノーラ、あいつらは俺がやる。お前はジンを守れ。――ここからは、ただの掃除じゃ済まないぞ」

リュカが軍刀を構えると、その刀身に真っ黒な魔力がまとわりついた。彼の周囲の空気が重力で歪み、石畳が次々と粉砕されていく。

かつて彼が見せた「惨劇」の再現。無慈悲なまでの力、一点の迷いもない殺戮の舞踏。

リュカが踏み込めば、異形の騎士たちは悲鳴を上げる間もなく霧散していく。その姿は、王都を救う騎士ではなく、深淵から這い出た死神そのものだ。

「さあ、見えているぞ。この屋敷の底で糸を引いている貴様ら、出てこい!」

リュカの咆哮が地底に響く。宰相の背後にいたはずの「本当の黒幕」が、闇の中からゆっくりと姿を現す。それは、王都の地下に数百年も眠り続けていた、かつての王弟のなれの果て――吸血の呪いを帯びた亡霊だった。

「面白すぎる……! 伝説の怪物狩りか!」

リュカは血に染まった頬を拭い、陶酔したように笑う。

エレオノーラは、リュカの背中に宿る「破滅への予兆」を感じながらも、彼と共に踏み込む覚悟を決めた。

王都を救うための戦いは、いまや、人知を超えた「巨悪」との決戦へと変貌した。

リュカは、自身の中にある「悪」を解放することでしか、この国の呪いを断ち切れないと理解していた。

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