第11話 知らなかった横顔

文化祭準備は一気に忙しくなっていった。


放課後の教室には、残って作業する生徒たちの姿が増える。


その中心にいるのが、実行委員の悠斗と美咲だった。


「この装飾、もう少し明るくした方がいいと思う。」


美咲が資料を見ながら言う。


「明るくって、どれくらい?」


「ここに黄色足すとか。」


「センスあるな。」


悠斗は素直に感心した。


意外だった。


いつも柔らかく笑っているだけの美咲が、こんなに手際よく全体を見ているとは思わなかった。



「白石さんってさ。」


クラスメイトの女子が話しかける。


「こういうの得意なんだね。」


「昔から好きだったんです。」


美咲は自然に答える。


その姿を見て、悠斗は少しだけ距離を感じた。


同じ場所にいるのに、知らない一面がある。


そんな当たり前のことに、今さら気づく。



放課後が続く。


二人で残る時間も増えた。


机の上には色紙、ペン、資料。


「こっちのデザインどう?」


「いいと思う。」


「適当じゃない?」


「ちゃんと見てるって。」


軽いやり取り。


でもその空気は不思議と心地よかった。



ある日。


準備が遅くなり、教室には二人だけが残っていた。


窓の外はもう暗い。


「疲れたな。」


悠斗が伸びをする。


「お疲れさま。」


美咲は片付けをしながら言った。


その横顔を見て、悠斗はふと気づく。


――美咲はよく笑う。


でも今日は少し違った。


集中しているときの顔は、静かで、少し大人びている。



「ねぇ。」


美咲が突然言う。


「ん?」


「悠斗くんってさ。」


「うん。」


「昔から変わらないよね。」


悠斗は少しムッとする。


「それ褒めてる?」


「うん。」


即答だった。


「まっすぐで、分かりやすくて。」


「バカってことか?」


「違うって。」


美咲は笑った。


でもその笑顔の奥に、少しだけ寂しさが混じった気がした。




帰り道。


夜風が少し冷たい。


二人は並んで歩く。


「文化祭楽しみ?」


悠斗が聞く。


「うん。」


「でもちょっと緊張する。」


「なんで?」


美咲は少し間を置いた。


「うまくいかなかったら嫌だなって。」


意外だった。


いつも明るい美咲が、そんなことを言うなんて。



「大丈夫だろ。」


悠斗は軽く言う。


「お前すごいし。」


その言葉に、美咲は少し驚いた顔をした。


そしてすぐに笑う。


「そういうとこだよ。」


「何が?」


「安心するところ。」


駅の前で立ち止まる。


別れ道。


「じゃあまた明日。」


悠斗が言う。


「うん。」


美咲は一瞬だけ迷ったような顔をした。


そして――


「ねぇ悠斗くん。」


「ん?」


「私さ。」


言いかけて、やめる。


「やっぱいい。」


「なんだよ。」


「秘密。」


そう言って笑った。


だがその笑顔は、少しだけ揺れていた。




その夜。


美咲は机の前に座っていた。


文化祭の資料の横に、一枚の紙。


そこには小さく書かれた言葉。


『好き』


それを見つめたまま、ペンを持つ手が止まる。


「……まだ、早いかな。」


小さく呟いて、その言葉をそっと隠した。



一方その頃。


悠斗も布団の中で天井を見ていた。


頭に浮かぶのは、美咲の横顔。


最近、そればかりだ。


「なんなんだよ、ほんと……」


胸の奥が落ち着かない。


でもそれが嫌じゃないことにも気づいていた。



文化祭まであと少し。


二人の距離は、ゆっくりと確実に近づいていく。


そして同時に、


まだ言葉にならない想いも膨らんでいく。




## 第12話予告


文化祭準備が佳境に入る中、悠斗は美咲の“過去の話”を聞くことになる――。

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