第5話 暦の秘密
退院から一夜明けて、昨夜は1日ぶりに自分の部屋のベッドで寝たけど……もう最悪だった!
昨日の夕方、暦との話しは中断してしまい、それからは何も話せないまま夕飯を食べたりお風呂に入ったりした。
けどその間もさっきのことが頭から離れなかったし、暦と同じ空間にいるのはとても気まずい。
ギクシャクしてる相手が家族にいたらこんなにも息苦しいんだって、初めて知ったよ。
で、何も話せないまま就寝。
朝起きたら手の数字は消えてて、やっぱり呪いなんてあるわけないってなったらいいのになんて、虫のいいことを考えてたけど……。
けどどうやら呪いは本物で、しかも安らかな眠りすら与えてくれないらしい。
わたしはその夜、悪夢にうなされた。
夢の中でわたしは、真っ暗な夜道を歩いていたんだけど、そしたら目の前にあの、赤い服の女の子が出てきたの!
「あと6日……あと6日あと6日あと6日あと6日アトアトアトアトアトアトムイカムイカムイカムイカムイカムイカ!」
「きゃああああぁぁぁぁっ!?」
踵を返して一目散に逃げ出したけど、どうやら夢の中に逃げ場なんてないらしく。
結局わたしは朝目を覚ますまで、延々追いかけられるハメになった。
「……最悪だ~」
ベッドで目を覚ましたわたしは、悪夢を思い出してげんなりする。
たっぷり眠ったはずなのに、昨夜より疲れがたまっていてキツい。
今日が土曜日で学校が休みなのは幸いだ。
こんな状態で学校に行っても、途中で倒れてまた心配かけちゃうかも。
もう一度寝直そうかとも思ったけど、もしかしたらまた悪夢を見るかもしれないと思うと怖くて。
とりあえずベッドを抜け出して、リビングへと向かうことにした。
そこにはすでに、お母さんとお義父さんがいたんだけど……。
「おはよう愛梨……って、どうしたの? 顔色悪いわよ」
「もしかして、まだ倒れた時の影響があるんじゃ?」
開口一番に、そんな事を言われた。
え、わたしってそんなに酷い顔してるの?
適当に誤魔化して洗面所に行って、鏡を見て……納得。
そこにはまるでゾンビみたいに精気がなく、ゲッソリしたわたしが映っていた。
「これはお母さんやお義父さんも心配するよね。と、とりあえず顔を洗おう」
冷たい水で、バシャバシャと顔を洗ったけど、これからどうしよう?
昨夜の悪夢といい、もう呪いなんてあるわけないって、笑うことはできない。
呪いが本当なら、もしかしたらこれから毎晩あんな夢を見せられるのかもしれないし、あと6日後、いったい何が起こるんだろう?
暦が言ってたみたいに、死んじゃうかもしれない。
そんなのはごめんだ!
「……そうだ、暦なら何か、知ってるかも?」
少なくとも赤い服の女の子については、知ってるみたいだったし。
ただ問題は、ギクシャクしてて話しにくいってこと。
暦ってば、何を考えてるか分からないし。
せめてもっと取っつきやすい性格ならよかったのに。
そんにことを考えながら、顔を洗い終えて洗面所を出ようとすると……。
「──っ!?」
後ろを振り向いて、ビックリした。
だってそこにはいつの間に来たのか、暦が立っていたの。
「こ、暦……えーと、お、おはよう」
ギクシャクしてるのに、おはようも何もあったもんじゃないけど、つい反射的に挨拶してしまう。
暦も一瞬ビクッとしたように固まったけど、すぐにボソボソと呟くように口を開く。
「お、おはよう……愛梨ちゃん、昨日のことなんだけど」
「昨日のことって言うと……呪いのこと?」
聞き返すと、コクンとうなずかれる。
ちょうどわたしも気になっていたから、暦の方から話を振ってくれて助かった。
「ああいうのに詳しい、頼りになる人がいて……良かったら今日、会いに行ってみない?」
「はい?」
突然の申し出に戸惑う。
暦は何か知ってるっぽいし、その暦が頼りになるって言うなら、相談しても良いのかもしれないけど、それっていったいどんな人?
例えば怪談話なんかだと、知り合いの詳しい人に頼るなんて展開はあるあるだけど、そんな知り合いが都合よくいる?
信じていいか、わからないお誘いだったけど……。
「そんな人がいるなら、お願いできる?」
暦の顔色をうかがいながら答える。
悪いけど、言ってることを鵜呑みにしたわけじゃない。
だけど今まで起きた事を思うと、選り好みなんてしてられない。
藁にもすがる思いで、この提案を受け入れる。
「わかった……朝のうちに出掛けよう。早い方がいいと思うから」
「うん……」
かくして暦と二人での、お出かけが決まった。
その後お母さんに出掛けることを話すと、「ふふ、二人でお出かけ? 仲いいわねぇ」って嬉しそうにしてたけど、そんないいもんじゃないから!
まさか姉妹はじめてのお出掛けがコレだなんて、想像してなかったよ。
◇◆◇◆
時刻は、11時を回ったくらい。
暦に連れられてやってきたのは一つ隣の町にある、一件の本屋さんだった。
「え、頼りになる人がいるのって、ここ?」
てっきり神社かお寺にでも行くものと思っていたわたしは、店の前でキョトンとした声を出す。
小さな路地を抜けた、非常に分かりにくい寂れた場所にあったそれは、個人経営と思われる本屋さん。
一見すると本屋とはわからずに、入り口にあった看板でかろうじてわかったけど……。
その看板も長年雨風にさらされたせいか文字が剥がれ、『書店』だけが辛うじて読める状態。
こんなボロい……ううん、古めの本屋にいったい、何があるって言うんだろう?
「暦は、よくここに来るの?」
「うん……中に入ろう」
引き戸になっている店のドアを開けて、わたしは暦の後に続く。
店の中にはたくさんの本棚が所狭しと並んでいて、本棚の奥にはレジがある。
そこに、眼鏡をかけた二十代くらいの、クセッ毛の男の人がいた。
「忍さん、こんにちは」
「ああ、暦ちゃんかい」
ニコッとした笑みを浮かべるその顔は甘く、年上の男性なのにかわいい感じがする。
暦、こんなお兄さんの知り合いがいたんだ。
ちょっと意外に思っていると、忍さんと呼ばれたお兄さんがこっちを見てきて、わたしは慌てて挨拶をする。
「こ、こんにちは。わたし、二ノ宮……斎藤愛梨って言って、暦の……義姉です」
「なるほど。暦ちゃんから、お義姉さんができたってきいてたけど、そうか君が……」
暦ってばわたしの事を、いったいどんな風に話してたのだろう?
気になったけど、それよりも本題。
さっそく暦が切り出した。
「あの、忍さん。実は愛梨ちゃんが、赤い服の女の子に会ったんです。それでどうやら、呪いをかけられてしまったみたいなんですけど……」
「呪い? 詳しく聞かせてくれるかい?」
赤い服の女の子の話をしたとたん、忍さんの目の色が変わった。
わたしは言われるがまま、自分の身に起きた事を話す。
赤い服の女の子に会ったこと。
手に刻まれた数字や悪夢のこと。
都市伝説のオバケと会って呪われたなんて非現実的な話だったけど、忍さんは笑うことなく黙って耳を傾けてくれた。
「……なるほどね。その手の数字が、呪いの印というわけか」
「えっ、コレが見えるんですか!?」
「まあね。しかし赤い服の女の子に会うなんて、運が悪い……いや、暦ちゃんが近くにいたのが、不幸中の幸いかな? たしかちょうど今、赤い服の女の子について調べてる最中だったよね?」
「はい……けど、ほとんど情報がなくて」
暦と忍さんで話を進めているけど、待って。
暦って元々、赤い服の女の子のことを調べていたの?
「暦、赤い服の女の子のこと調べてたから、あんなに詳しかったの? ひょっとして、オカルトマニアかなにか?」
「ん? もしかして暦ちゃん、話していないのかい?」
忍さんが暦に目をやると、暦は少しうつむいておずおずと口を開く。
「マニアじゃないよ。ただちょっと……」
「ちょっと、なに?」
「み、視えるの。幽霊とか、怪異とか、普通の人には視えない不思議なものが」
暦は、思い詰めたような顔で告げた。
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