大正の世界観と神格鑑定という設定の組み合わせが巧みで、一章から最後まで一気に読ませる力のある作品でした。
何より印象的だったのは、この物語の「悪」が悪意を持たないことです。神は人を傷つけようとしていない。ただ愛しすぎた。その純粋さが却って残酷で、千種の葛藤がそのまま読者の葛藤にもなります。「善意で人を壊すものは判断を狂わせる」という水瀬の台詞は、物語全体のテーマを一言で射抜いていました。
千種と水瀬の関係性の描写も丁寧で、感情を出さない上官が僅かに揺らぐ瞬間の捉え方が繊細です。第五章の旅籠の場面は、千種の混乱と水瀬の不器用な誠実さが交差する、静かながらも密度の高い場面でした。
「喪失を受け入れるとはどういうことか」という問いを、ファンタジーの形を借りて正面から描いた作品です。連載の続きが楽しみです。