古い扇風機を買い替える、ただそれだけの日常から、亡くなった祖母の記憶がふっと立ち上がってくる短編です。
新しい扇風機がリビングで首を振っている横で、息子が古い扇風機に反応する。
その何気ない一言から、子どもの頃に祖母の家で過ごしていた時間や、遺骨が家にあった頃の感覚が静かに思い出されていきます。
大きな事件が起きるわけではありません。
泣かせようとする強い言葉があるわけでもありません。
けれど、古いものを捨てる時に、その物にくっついていた誰かの気配まで消えてしまうような寂しさが、とても自然に描かれていました。
息子が「悲しい」と言いながらも、すぐにスマホへ戻っていく描写もリアルです。
ずっと悲しみ続けるわけではない。
でも、忘れているわけでもない。
家族の記憶とは、案外そういう形で残っているのかもしれません。
扇風機の首振りが、まるでそこにいる誰かの気配のようにも見えて、読み終えたあとに少し黙りたくなる作品でした。
短い中に、生活の温度と、失った人への静かな愛しさが残る短編です。