第25話 権力者 *純*

 米沢駅から汽車に乗り、山形駅まで結構な時間が掛かった。


 飛べば一時間も係らないだろうにな。こんなに長く汽車に乗ったのは初めてだ。ケツが痛いぜ……。


「汽車の輸送も増えてきましたね」


「そうだな。車の時代が来るとは言われているが、まだまだ汽車の輸送は続くだろうよ」


 収納の指輪や転移を知ってしまうも輸送がバカらしく思えてくるな。


 駅から出たらバスに乗る。地名がまったくわからないので、旦那さんに付いて行くしかない。


 三十分くらい乗り、下砂丘しもすなおか、と読むのか? 町からは離れており、周辺には田んぼのほうが多かった。


「庄屋っぽい家ですね」


「豪商の家系で、土地と工場といくつかの会社を経営している。知り合いの父親は県議員だったな」


 かなりの権力者ってことか。旦那さん、凄い人と知り合いだな。


「おれもここで産まれて、今の桝谷に婿養子で入ったんだ」


 婿養子流行ってんのか? 


 敷地内に入ると、江戸時代にタイムスリップしたかのようだ。


「ごめんください。桝谷の竹治たけじです」


 旦那さん、竹治って言ったんだ。


 何度か声を掛けると、五十過ぎくらいの女性が出て来た。まだ着物姿の女性は多いが、大正生まれの人は雰囲気が違うな。


「あら、竹治さん。久しぶりです」


新子あらこさん、お久しぶりです。学の具合はどうですか?」


「今日は、調子がよさそうです。庭を眺めておりますよ。どうぞ、顔を見せてやってください」


 中へと勧められ、お邪魔することに。人の気配がないな……。


 縁側の廊下を進むと、安楽椅子に座った老人──いや、旦那さんと同じなら五十前半くらいか?


「学。顔を見に来たぞ」


 友人、いや、幼馴染みなんだろう。地位や身分に関係なく親しみを感じる口調だった。


「……あぁ、竹治か。久しぶりだな……」


 声に力はないが、幼馴染みが来て嬉しそうだった。


「今日は調子がよさそうだな」


「ああ、今日は怠さがなくて落ち着いているよ」


 懐かしそうに楽しそうに、どんなに権力や財力があろうと最後に大事なのは友人ってのがわかる光景だよな。


 ……オレはそんな大切なものを捨てようとしているんだな……。


 わかったからと言って、異世界に行くことを止めたりはしない。オレの人生はここにはないから。ぬるま湯より熱い世界でいきたくなったからだ。


「あのな、学。信じられないだろうが、お前の病気を治せる薬があるんだ。これだ」


「それはまたいいものを手に入れたな」


 信じてないだろうが、それでも友人の言葉が嬉しいんだろう。自分を思ってくれると思って。


「ああ。お前がいなくなるのは寂しいからな。一縷の望みに掛けてみたらあっさりと正解だったよ。エクサリーというらしい。大体の病気や怪我を治すそうだ」


「なんだ、人魚の肉でも手に入れたか?」


「まあ、似たようなものだな。竜の血といろんな草から作ったそうだ。おれも飲んだら腰痛が治ったよ。どうだ、肌艶がいいと思わんか? 二十は

若返った気分だ」


「…………」


 冗談で言っているんじゃないとわかったのだろう。学さんが真顔になった。やっぱ、明治生まれは迫力が違うわ……。


「飲むか?」


「飲むに決まっておる」


 今にも死にそうだった顔に、いや、声に力が漲っていた。


 瓶の封を切り、学さんに飲ませた。


「……苦いな……」


「良薬口に苦しだ。我慢しろ」


 学さんね顔に少しずつ赤味が戻ってきている。カサカサしていた唇にも艶が出てきた。


「旦那さん。栄養剤です。大病や大怪我ほど体内の栄養を使うそうなので、これを飲ませるといいそうです」


 先に栄養剤を飲ませたほうがいいんじゃないかと三月に尋ねたら、身体機能が衰えた状態では吸収されないんだそうだ。


「あ、ああ、わかった。学、これも飲むんだ」


 茶色の瓶に入った栄養剤を飲ませた。


「……か、体が熱い……」


「栄養剤が体に吸収している証です。次に、眠気が来るそうです。無理しないで眠ってください。失ったものを治そうと体が休眠させるそうなので」


「……わかった……」


「旦那さん。奥さんを呼んで布団に寝かせましょう。ここでは体に悪いですから」


「そ、そうだな。新子さん、学が眠りました。布団に運びましょう」


 奥さんがやって来て、布団を敷いてもらい、オレと旦那さんで布団へと運んだ。


「なんだか穏やかに眠っているわ」


「勝手ながら伝手で手に入れた薬を飲ませました」


 旦那さんが奥さんに土下座をした。


「頭を上げてください。こんなに穏やかに眠っているのだから万が一があっても責めたりはしません。むしろ、ありがとうございました。痛みで眠れぬ夜もありましたから」


「もしよければ新子さんも飲んでください。わたしも善子も飲んで体がよくなりましたから。ただ、味は最悪です。草の汁を飲んだかのようです」


 奥さんにも封を切ったエクサリーを渡した。


 どうするのかと見ていたらあっさりと飲んでしまった。奥さんからしたらわけのわからない薬だっていうのに、だ。


「確かに不味いですね。でも、なんだか体が軽くなったような気がします」


「手を見てもらえば効いたかどうだかわかりますよ。色艶がよくなっていますから」


 奥さんが自分の手を見て驚いている。


「……手に、張りが戻っている……」


 効果が現れてなにより。長生きしてくださいな。

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