第15話 収納の指輪 *純*
「あれ? 茅葺き屋根の家じゃなかったか?」
立派な家だったのに、なんかトタン屋根に変わっていた。どうしたんだ?
「茅葺き職人も減ったからな、トタンに変えたんだよ
あ、こっちもそうなんだ。うちも十年前くらいにトタン屋根に変えたっけ。時代なんだろうな……。
「あっちの家はなかったよな?」
現代的な二階建ての家だった。山形の冬に耐えられるのだろうか?
「離れだ。おれたち夫婦が住んでいるよ」
「母屋には住まなくなっているんだ」
「ああ。若いのは新しいのがいいだろうと親父さんが建ててくれたんだ。婿に来てくれた祝いだってな」
「農家に婿養子って、やっぱり少ないのか?」
当時も珍しいって声が出ていたっけ。
「まーな。高校を出たヤツは特に都会に行きやがる。ここでも何人も出て行ったって話を聞くよ」
「オレも家を出た身だからなんとも言えんな。いや、出戻りしたんだが」
「
「定治と繋がっているのか? あいつ、大阪に行ったんじゃ?」
大阪の土木会社に就職したんじゃなかったか?
「今年の春に宮城支社に異動になったと手紙が来たよ」
そうなのか。あいつは立派に働いているんだな……。
「おーい、万由美。客だ。お茶を頼むよ」
離れへと案内され、声を掛けると、奥から嫁さんと男の子が出て来た。
結婚式で見たはずなんだが、まったく記憶にない。こんな人だったっけか?
「どうも。結婚式以来です。戸川純です」
「あー、戸川さん。旦那からよく聞いてます。どうぞどうぞ」
突然来たのに笑顔で迎えてくれた。
「あ、これ。町の肉屋で買ったコロッケです。皆でどうぞ」
三月が作った肩掛け鞄に手をいれ、収納の指輪から買ったコロッケを出して奥さんに渡した。
「信乃屋です。高かったでしょうに」
あ、有名な肉屋だったんだ。なら、帰りにもっと買って帰るとしよう。
「米沢牛が入っているのを見てつい買ってしまいました」
「どんだけ買ってんだよ。こっちとしてはありがたいが」
さすがに二十個は買いすぎたか? やっぱ三月に毒されてんな、オレ。
「山形は美味そうなものばかりでいいな。漬物も美味そうだった」
美味そうではあるが、お袋も漬けている。食い切れないだろうから流したんだよ。
「都会のように洒落たものはないがな。米は絶品だ」
そういや、昔っから米が好きなヤツだったっけ。
「実は、こっちには米を買いに来たんだよ。もし、迷惑でないなら良二のところでも買ってもいいか? 代金はしっかりと払うんで」
「別に構わんが、どうやったら持って帰るんだ? 担ぐとなると十キロでも大変だぞ」
「実は、本当の目的はこれをお前にやろうとやって来たんだ」
ポケットから収納の指輪を出してちゃぶ台の上に置いた。
「指輪?」
「ただの指輪はじゃない。特別な指輪だ」
自分の人差し指にしている指輪を見せ、左手の日に嵌めてみせた。呪いの指輪とかじゃないのを証明するために。
「それ、金か?」
「あ、どうだろう? そこまで聞かなかった」
性能に驚いて指輪のことまで頭が働かなかった。言われてみれば金色だな、この指輪。金なのか?
「わかってないのかよ」
「……最近、金やら銀を見すぎて気にもならなかったよ……」
金銀など日本円に換金する金属としか見てない。我ながら興味なさすぎだろう……。
「ま、まあ、とにかく指に嵌めてみろ。呪いの指輪とかじゃないから」
指から外して良二に渡した。ほら、嵌めろって。
「わ、わかったよ。これでいいのか?」
「オレの指に嵌めている指輪も同じ性能を持ったものだ。アウト」
さっき買った日本酒をちゃぶ台に出した。
「なっ!? ど、どこから出したんだ?!」
「まあまあ、その一升瓶を見て指輪にインと念じてみろ」
え? え? え? と戸惑いながらも指輪に一升瓶を入れた。
「……な、なんだこれ……?」
「収納の指輪。つまり、魔法の指輪だ。指輪の中になにが入っているか頭の中でわかるはずだ。名前を決めて入れたらその名前で記憶される、凄いだろう?」
オレは収納の指輪の凄さを理解する前に異世界に連れて行かれたからな、その辺はすっ飛ばしてしまいました。
「…………」
あんぐりと口を開けてオレを見る良二に、ここ最近のことを話した。
オレは異世界に行く。危険な場所らしいから死ぬかもしれない。本格的に行くのは半年後だが、旅立ってしまえば今生の別れになるかもしれない。
その前に仲がよかった良二と別れを交わしたかった。そして、三月に協力者を残しておきたかったのだ。
「オレは自分の弱さのせいで両親を失望させた。親孝行する資格もない。それは新しいオレに任せることにした。だから異世界に行くことに決めた。そして、最後にお前に会っておきたかったんだ。友達って呼べるのは良二や定治くらいだからな……」
「……純……」
「まあ、そんな顔するなよ。お前の人生からオレが消えるだけ。家族を養うことだけを考えろ。あと、可能なら新しく戸川純を助けてやってくれ。今度連れてくるからさ」
まったく、オレは人を不快にさせてばかりだ。それも三月に取り戻してもらうとしよう。相原三月から戸川純になるんだからな……。
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