第10話 公明正大(笑) *三月*

 寿司も美味し。寿司ってこんな味だったんだな~。


 千円だとそんなに食べられないかと思ったが、平成では一万円くらいになるのか、結構な量を握ってもらえた。


「満足満足。また食べに来れるようがんばるか」


 この感じならまだ裏の稼業が行えるだろう。平成では税金が、物価が、不況がと暗いことばかりだった。


 でも、この時代ならまだ緩そうだし、発展していっているのがわかった。


 金儲けに時間は割きたくないが、金がなければ買うことができない。楽しむ程度にお金を稼がせてもらうとしよう。もちろん、戸川純として公明正大に生かさせてもらうがな。


「はいよ。鱒寿司だ。暖かいところには置かないでくれ」


 鱒寿司を四人前で合計四千三百円。大学初任給が一万円前後なら豪遊した感じだな。別の町でも金製品を買い取ってもらうかな?


「毎度あり! また来ておくれ!」

 

 大将や女将さんに見送られて寿司屋を出た。また来ま~す!


「いや~、食った食った。ビールがあんなに美味いとは思わなかったよ」


 年取って味覚が変わったのかね? ビールを舐めたとき「苦っ!」って記憶があるんだがな。それとも異世界で鍛えられたか? 不味さに。


「次は、どうするんだ?」


「そうだな。服を買うか。替えはあったほうがいいしな」


「確か、駅のほうにあったはずだ」

 

 ってことで行ってみると、デパートっぽいものがあった。この時代からあるものなんだな。あ、駅から出たときに見た建物か。


 平成を知っている者からしてデパートと言っていいのかは謎だが、品揃えはよく、店員さんの勧めでシャツやスラックス、甚平なんかも買った。

 

 下着はトランクスだったので、下着は自分で作ることにした。あっちではなんでも作らないとならないから裁縫も得意になったものさ。


「なんでも売っているっていいよな」


「そういうものなんだ」


「不自由なところにいると昭和時代でもありがたいものだ。ラーメンが食いたい」


 なんかラーメンの匂いがどこからか流れて来た。


「ついさっき寿司を食ったばっかりだろうが」


「インスタントラーメンはあるか?」


「インスタント? なんだそれ?」


 どうやらまだインスタントラーメンは生まれてないようだ。あと何年すれば発明されるんだ?


「昭和四十年くらいにならないと、平成で食べられるものは生まれないのかね~」


 お父さんが小さい頃は食べていたって話だし、あと数年では無理か。今食えるもので満足するしかないな。ラーメンくらいなら自力で作れそうだし、道具を揃えて挑戦してみよう。


「昭和時代にはどんな美味いものがあるんだろうな」


「食い気しかないのかよ」


「他にもあるぞ。バイクにも乗って旅がしたいとか、観光名所を回りたいとか、地元の美味いものを食いたいとかな」


「やっぱ食い気だろうが」


「アハハ。確かにそうだ」


 だが、美味いものが食える幸せをお前は知らない。異世界で美味しいものを探すのは大変だったんだからな。


「そう言えば、この時代に喫茶店とかあるのか?」


「まあ、多くはないが、あるにはあるな。オレは県庁通り沿いのところしか知らんな」


 大した距離ではないが、戻るのはちょっと億劫だな。


「なら、買い物を続けるか。食料を買いながら西口に行ってみようか」


「汽車の時間はまだまだだぞ」


「帰りは使わないよ。オレは転移魔法が使えるからな」


「転移魔法? テレポテーションか?」


「まあ、似たようなものだな。ただ、覚え石ってものを置かないとならないんだ。座標がないと転移は出来ない。ちなみに空を飛ぶ魔法もあるぞ。車より速く飛べるからうちまで十五分とかからんのじゃないかな?」


 駅から二十キロもないはずだ。それなら十五分くらいだろう。魔力を込めればもっと速く飛べるがな。


「飛んでみたい! 飛ばしてくれ!」


 な、なんだ? 空に憧れを持つタイプなのか? 意外と子供っぽいとこあるじゃないか。


「わかったよ。なら、人目のないところに行くか」


 仕方がない。買い物はまた明日にするか。ちょっと疲れたしな。


 地下道を通り、西口へと向かう。


「こっちは寂れているんだ」


 いきなり田舎ってわけではないが、東口と違って緑が多い。高い建物もない。商店街が左手にありそうな感じだ。


 人目どころか人がないので、ベンチに座りながら飛翔の指輪を出して右手の薬指に嵌めさせた。


「それは飛翔の指輪。オレが創ったものだ。指輪に籠めた魔力によって飛距離は変わるが、人が走るくらいの速度なら三十キロくらいは飛べる」


「ずっと飛べるわけじゃないんだな」


「まーな。魔力って燃料がないとオレが創ったものは動いてくれない。だが、魔力充填する道具もあるから問題はないな。左手の指にも嵌めたら六十キロは余裕だ」


 ついでだからもう一つ出して左手の薬指に嵌めさせた。


「オレ用に創ったから純用に変える。まずはオレが操作して飛んで純の意識と同化させる。これは慣れが必要だ。細かい動きをしようとしたら一月くらいは掛かると思う」


「問題ない。もうやる気しかないからな」


 子供のように笑顔を輝かせているよ。


「人は……いないな。よく周囲を確認してから飛べよ。驚かさせたら悪いからな」


 この地に幽霊や未確認飛行物体がウワサになったら大変だからな。


「わかった」


「よし、飛翔!」


 で、空へと舞い上がった。

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