第4話 異世界名はロベルタ *三月*

 よかったよかった。やっと信じてくれたよ。


「今日はこのくらいにしよう。頭を冷やす時間も必要だからな」


 詰め込みすぎても消化するのに大変だろう。オレも召喚されたときはパニックになったものだからな。


「あ、ああ。そうさせてもらうよ。夢かもしれないからな」


 小屋で寝てもらい、オレは数日留守にしていたので小屋の周りを確認することにした。


 ここは、辺境の地であり、魔物が跋扈する魔境である。まあ、オレの付与魔法で結界を張っているので侵入されることはないが、絶対に破られないってこともない。竜とかなら簡単に破れる程度のものだから。


 それに、ここには獣人たちも住んでいる。


 オレが十年前に助けたヤツらで、住むところがないってんで一緒に連れて来たのだ。開拓するには人手がいるからだ。


「ジュール」


 獣人を纏める長老のところに行き、声を掛けた。


「ロベルタ様、どうかないましたか?」


 あ、ロベルタとはオレの異世界名だ。相原三月という名を隠すためにな。知る人ぞ知る存在だからだ、オレらって。


「新しい人間を連れて来た。しばらくここに住まわせるから襲ったりしないでくれよ」


 獣人はケンカっぱやいのが困ったちゃんなんだよな。どちらが上か教えたら従順にはなるが。


「わかりました。皆に伝えておきます」


「頼むよ」


 小屋に戻ると、純くんが起きていた。眠れなかったかな?


「もっと眠ってていいんだよ」


「いや、オレは睡眠時間が短いんだ」


「部屋ではなにしてたんだ?」

 

 ネットもない時代でなにをするんだ? テレビはあるようだが、まだ高価なもので一般には普及してないそうだ。


 ……二十年以上、テレビやネットから離されるとなくても平気になるから不思議だよ。アプリゲームだSNSだと中毒になってたのにな……。


「ラジオを聞いたり本を読んだりだな」


「漫画とかは読まないのか?」


「子供向けだからな。未来では違うのか?」


「いろんなジャンルがあって少年誌は読んでたかな?」


「少年クラブとかか?」


「それは知らないな。週刊誌、月刊誌とたくさんあったよ。もう二十年も前のことだったからうろ覚えになっているが」


「小説もたくさんあったのか?」


「ああ。漫画に負けないくらいあったぞ。オレが中学生のときは異世界物が流行っていた」

 

 それらを読んでいたから異世界で生き残れたと言っても過言ではないだろうよ。いや、夢中になって読んでおいてよかったぜ。


「……異世界か……」


「生温い世界じゃない。生きるか死ぬかの世界だ。魔物やたくさんの種族がいて、神もいるみたいだ。オレは魔王しか見たことないがな」


 神がいるなら文句を言ってやりたかったよ。テメーんとこのバカに天罰下しておけ、ってな。


「ま、魔王? どんなヤツなんだ?」


「亜神に近いヤツだった。オレら召喚された者たちも人間離れした力を持っていたが、それでも勝てたのは僥倖だ」


 六人がかりでやっと倒せた存在だ。近代の軍隊でも危ういだろうよ。極大魔法とか町を消滅させられるだけの威力あったし。魔王の一撃は山をも吹き飛ばしていたし。メッチャ強かったよ。


「あ、亜神? 荒唐無稽すぎて想像が出来ないよ……」


「オレは、熊なら拳一発でミンチに出来るし、がんばれば一トンの岩でも持てる。もっとも、オレは支援タイプだったんで一番腕力はなかったが」


 魔法タイプのミレンダ(異世界名ね)とどっこいどっこいだった。魔力はオレのほうが上だったがな!


「……オレ、そんなに強くないぞ……」


「そこら辺は大丈夫だ。オレは付与魔法師だったからな。道具や薬で底上げ出来る。レベルアップ出来る付与も与えられるぞ」


 元々魔物のエネルギーを吸収して強くなる世界だ。レベル99とかステータス画面とかはないが、強さを数値化させた魔道具はある。それでいうならオレは総合SS。魔力だけはSSSだ。


「オレの魔法があればBランク冒険者くらいにはなれるはずだ」


「そのBはどのくらいの強さなんだ?」


「そうだな? 熊と肉弾戦は出来るレベルじゃないか? 魔法なら象でも灰に出来るぞ」


「……と、とんでもないな……」


「熊なんて可愛いと思えるくらいの魔物はたくさんいるさ。赤い竜を見たらダッシュで逃げることだ。あれはオレ一人では厳しい存在だ」


 もう一人いたらなんとか勝てる相手だ。まあ、狩り尽くして絶滅しているかもしれないがな。


「厳しい世界だが、そちらの世界のように難しくはない。強いヤツが生き残り、弱いヤツは食われる。町に行っても難しい法もない。あったところで力でねじ伏せたらいい。ここは、そんな世界。新しい人生を始めるには刺激的なところだと思うぜ」


 引きニートの思いなんてわからない。わからないが、鬱屈しているのはわかる。戸川純を捨てて生きるにはもってこいの世界だろうよ。


「と、言ってもいきなり放り出すことはしない。オレも昭和時代をどう生きていいかわからない。だから、今年は交互に世界を案内し合おうじゃないか。半年もあればAランクまで上げれるだろうから」


 AからSに上がるのは難しいが、Aランクまでなら半年もあれば充分だろうよ。 


「わ、わかった。そうしよう」


 理解してくれてありがとうございます、だ。

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