実験記録
年度が変わっても、西園玲の様子は相変わらずであった。
単独で現場へ向かうことこそ無くなったものの、共同で作戦に当たる霊能者やサイキックに、作戦外の後方待機を命じ、一人で前線に立っている。また、時間があれば担当区域外の除霊現場へ向かい、担当者が苦戦していると判断するや、勝手に介入して除霊を完了してしまう。
しかし、西園のおかげで、一都三県の霊能者の殉職率、及びサイキックの離職率が大幅に減っていること、除霊の成功率が爆発的に高くなっていることは否定できなかった。
そのため、霊対局は彼女の処遇を決めかねていた。数字の上では、彼女は確実に特異な戦果を納めていたのだ。次第に、彼女へ公式により広い担当範囲を与え、単独での業務を増やしたらどうかという意見が生まれていた。
三枝は、稟議書を見ながらコーヒーを飲んだ。その稟議書にも、だいたい似たようなことが書かれていた。
ーしかし、と、三枝は喉の奥で言った。その稟議書を通せない理由があった。
稟議書を傍に寄せ、新たに一枚の書類に目を通す。
『臨床経過記録:重要参考人物 SPEC-001』と題されたその書類には、他でもない西園玲についての記録が刻まれている。
(ー体重が前回より2キロ減っている。それに眼振。体温の低下も確認できる)
先天的変異型精神感応出力研究実験。西園がその重要参考人物、要は検体の採取先であり、研究対象であることなど、この稟議書を上げた職員には知り得ないことであった。
(それにしたって、多少観察眼があればこんな稟議書は上がらないはずなんだがな)
と、三枝は苦々しく思う。実験の影響だけではない。連日の過剰な、そして勝手な出動で、西園の体力は確実に消耗している。西園が通常通りの様子を取り繕っていようが、この程度の変化にすら気付けないのは管理者失格だ、それに、あまつさえこんな不安定な人間の担当範囲を拡張しようなどと正気の沙汰ではないと、三枝は一人苛立った。
が、それすらどうにもならないことを知っていた。
稟議書を差し戻し、西園を執務室へ呼び出す。それが三枝にできる最良のことであった。
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