第5話 四部位セットへの執念

レベル30を超えた頃には、村周辺の狩場ではほとんど成長を感じられなくなっていた。

最初は苦戦したゴブリンも、今ではファイアボール一発で吹き飛ぶ。森狼も同じだ。群れで襲ってきてもファイアウォールを置いておけば勝手に焼けていく。オークですら、アイスランスとファイアボールを組み合わせれば数秒で倒せる相手になっていた。

もちろん経験値は入る。

しかし効率が悪い。

敵を倒す速度に対して得られる経験値が少なすぎるのだ。

DIABLORを何千時間も遊んできた俺にとって、効率の悪い狩場に留まり続けるという選択肢は存在しなかった。

目指している場所はもっと先にある。

レベル99。

そして、その先だ。

そのためには少しでも早く経験値を稼ぎ、少しでも強力な装備を揃えなければならない。

今の装備構成は、《旅人の指輪》《旅人のペンダント》《土竜の指輪》《土竜のベルト》の四つだ。

どちらも二部位セット。

序盤としては十分強い。

しかし、DIABLORにおいて真価を発揮するのは四部位セットからだった。

二部位ボーナスは序章。

四部位ボーナスからが本番。

それが長年のプレイ経験から得た確信だった。

装備部位は全部で九か所ある。

指輪が二つ。

ペンダントが一つ。

そして防具が六か所。

鎧、脚装備、兜、腕装備、ベルト、靴。

同じシリーズの装備はそれぞれ別々の部位に配置されているため、セットを完成させるには地道に集め続けなければならない。

「狙うは四部位セットだ」

そう呟いて、俺は村人たちが近寄らない深森へ足を踏み入れた。

そこは初心者が立ち入る場所ではない。

鬱蒼とした木々が空を覆い、昼間でも薄暗い危険地帯だ。

生息している魔物も村周辺とは比べものにならない。

中でも有名なのが熊型魔獣だった。

体高三メートルを超える巨体。

全身を覆う分厚い毛皮。

丸太のような腕。

普通の冒険者ならレベル四十前後になってから仲間を集めて挑む相手だという。

しばらく森を進んでいると、前方の茂みが激しく揺れた。

そして巨大な影が姿を現す。

グオオオオオオオオオッ!!

耳をつんざく咆哮が森中に響き渡った。

目の前に現れた熊型魔獣は想像以上に大きい。

立ち上がった姿は見上げるほどで、その圧迫感だけで普通の人間なら足がすくむだろう。

実際、地面はその重量だけで小刻みに震えていた。

だが、不思議と恐怖はなかった。

むしろ高揚感の方が強い。

強敵を前にした時の独特な興奮。

ゲームで何度も感じた感覚が現実でも蘇っていた。

「ファイアウォール!」

地面を赤い光が走る。

次の瞬間、巨大な炎の壁が出現した。

熊型魔獣は勢いのまま突っ込んでくる。

毛皮が燃え上がる。

焦げた臭いが漂う。

それでも止まらない。

さすがに耐久力が高い。

「アイスランス!」

続いて放った氷槍が胸部へ深々と突き刺さる。

巨体がわずかによろめく。

動きが鈍った。

十分だ。

その隙を逃さない。

「ファイアボール!」

掌から放たれた火球が一直線に飛ぶ。

轟音。

爆発。

閃光。

衝撃波。

巨大な熊型魔獣の身体が後方へ吹き飛んだ。

数本の木を巻き込みながら倒れ、そのまま動かなくなる。

討伐成功だった。

「ははっ……!」

自然と笑みが漏れる。

強い。

本来なら勝てる相手ではない。

それが分かるからこそ面白い。

アドレナリンが全身を駆け巡っていた。

心臓が激しく脈打つ。

呼吸が速くなる。

視界が妙に鮮明になる。

前世では味わえなかった感覚だった。

ゲームでは何千回もボスを倒した。

だが現実で巨大な怪物を撃破する高揚感は別物だ。

その後も俺は狩りを続けた。

二頭目。

三頭目。

四頭目。

経験値は美味い。

ドロップ品も悪くない。

何より狩っていて楽しい。

完全に狩場選択は正解だった。

そして夕方。

五頭目の熊型魔獣を倒した時だった。

地面に散らばった発掘品の中に見覚えのある意匠が混ざっていることに気付く。

胸が高鳴った。

急いで拾い上げる。

一つ目。

《旅人のズボン》。

二つ目。

《旅人の鎧》。

その文字を確認した瞬間、思わず息を呑んだ。

「まさか……」

汚れを拭き取り、何度も刻印を確認する。

間違いない。

今装備している《旅人の指輪》と同じ紋章だった。

つまり同一シリーズ。

つまりセット装備。

脚装備。

鎧装備。

これで旅人セットは四部位になる。

頭の中で警鐘のように記憶が蘇る。

DIABLORでは四部位セットから性能が激変する。

ここまでの二部位ボーナスなど前座に過ぎない。

本当の力はここから始まる。

「きた……!」

思わず拳を強く握り締める。

まだ装備していない。

効果も確認していない。

だが確信していた。

もしゲームと同じ仕様なら、今の戦力は一気に跳ね上がる。

数倍どころでは済まないかもしれない。

レベル99への道が大きく近付く。

夕暮れの森を歩きながら、俺は何度もドロップ品を見返していた。

宝箱を開ける前のような期待感。

レアドロップを引いた時の興奮。

DIABLORを遊んでいた頃に何度も味わった感覚が胸の中で膨れ上がる。

この世界の誰も知らない力。

その扉が、今まさに開こうとしていた。

________________________________________

パラメータ

Lv = 40

魔力 = 80

スキル威力 = 6

セットボーナス倍率 = 4

DPS = 1920

装備:

• 《氷トカゲの杖》

• 《魔法辞典》

《旅人》セット(4部位)

• 《旅人の指輪》

• 《旅人のペンダント》

• 《旅人の鎧》

• 《旅人のズボン》

→ 4セット達成

《土竜》セット(2部位)

• 《土竜の指輪》

• 《土竜のベルト》

→ 2セット達成

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