模型店の奥でテレビが笑っていた 〜ある町の模型店 10の記憶〜
トレトロ
001:テレビの音と笑い声のある模型店
いまでもふと思い出す情景がある。
店の奥から聞こえるテレビの音。
かすかに漂う埃の匂い、そして、聞こえる店主の笑い声。
いま、僕は行きつけの模型店にいる。
両脇には自分の背丈より高く積まれたプラモデル箱の山。
僕はいま、その山の中を歩いている。
祖母にもらった千円札を握りしめながら。
そこには、欲しいプラモデルが全部ある気がしていた。
O駅から徒歩10分、そこにその模型店はある。
「銀河模型店」外観から歴史のある店舗なんだと、子供心に勝手に理解した。
入り口は木枠ガラスの引き戸で、その左脇に大型のプラモ箱たちが積まれている。
箱は剥き出しのまま置かれていたので、当然、雨風で色褪せて一見売り物には見えないほどくたびれていた。
キュルキュルキュルと引き戸を開けて店内に入ると、一瞬静かになり自分の足音が鮮明に聞こえる。
店内は狭く、小学生の僕と弟二人が同時に通れるギリギリの広さ。
両サイドには僕の背丈より高く山積みされたプラモデルの箱が、天井近くまで積まれている。棚の数が足りないのだろうか、箱の上に箱を積んでいるから凹みまくっていた。
店内を照らす灯りは、すこし薄暗い蛍光灯。
時折ハエがぶつかり、カン、カンとリズミカルな音を立てている。
そして、店内奥からは、TVの音。
ワハハハハ・・・・!
店主の笑い声。
いつもの、銀河模型店の店内BGM。
僕はそのBGMを聞きながら、入り口から5m先の店主のいるレジまで進んでいく。
入店してから、店主は一度も口を開かないので、僕たち兄弟がこの模型店内にいることをちゃんと認識してくれているのか、不安になるからだ。
それで、僕は一旦レジ前まで行って、軽く挨拶することにしている。
店主は言葉を発することなく、会釈するだけだった。
また、店主はよく何かを食べて接客していた。
クチャクチャ音をさせながらしゃべるのだ。
冬のある日、いつも口に何を入れているのか気になって、一度だけ奥の部屋を覗いたことがある。
ストーブの上でスルメを焼いていた。
一時、弟がクチャクチャいわせながらしゃべる店主の真似をよくしていた。
プラモ山は店主のいるレジまで続き、入り口から真正面に座る店主の顔が、かろうじて隙間から見え隠れしていた。
一体どれくらいの期間、積まれたままだったのか、箱は色褪せて、埃っぽかった。
たしか、車や戦車、飛行機、船(戦艦)の模型だったと思う。小学生の僕でも知っているような名前が箱に書かれていた。
途中、右手に曇ったガラスのショーウインドウが置かれていて、中には塗料や筆などの工具類が展示されている。
売り物をこんな扱いで良いのだろうか?
と弟と二人顔を見合わせて、よく苦笑したものだ。
プラモの箱には値札が付いていない。店内のどこにも値段表記がない。
もちろん、割引もない。
だから、購入前に値段を尋ねるという儀式が必要だった。
そして、いつも値段を聞くのは僕の役目。
弟は、無口で表情が乏しい店主のことが怖かったそうだ。
僕たちは、店主のことを勝手に「ターボさん」と呼んでいた。
(弟がつけたあだ名だが、どうしてその名になったのかは、また別の機会にする。)
いまでも、あの模型店のことを思い出す。
薄暗い店内のBGM、店主、埃の匂い、山積みされたプラモデル。
僕はプラモデルの山の中を歩きながら、どれを買うか決められないまま、
そこにいた。
祖母にもらった千円札は、まだポケットの中にあった。
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