【新たな拠点と二人の従者】
正式な冒険者になり、
ひとまず落ち着いたアリアは、
ルミシェナと一緒に村へ戻ることにした。
筋力と敏捷は数字変換で底上げしてある。
そのおかげで、この辺りの魔物ならもう相手にならなかった。
そういえば最近、ステータスを確認していなかった。
アリアは歩きながら、改めて自分の状態を確認する。
アリア・フェルロード♀年齢15
Lv:17
筋力:34
敏捷:38
魔力:1130
体力:19
命:120
固有スキル
『数字変換F+2』同時維持可能数:3
『鑑定』
『差分吸収』
表示された数値を見て、
アリアは思わず足を止めた。
「どうかなさいましたか、主様?」
「いや……私、こんなに強くなってたの?」
以前とは比べものにならない数値だった。
魔力に至っては、最初の頃の自分が見たら信じなかっただろう。
「それに、スキルも増えてる……」
『差分吸収』
名前だけ見ても、何となく危ない気がする。
何かを奪うような、そんな響きがあった。
「あとでちゃんと確認しないと……」
そんなことを考えているうちに、
二人は村へ到着した。
アリアは、目の前の光景に言葉を失った。
以前、自分の家があった場所には、
黒灰色の石材で築かれた、城館のような建物がそびえていた。
黒灰色の外壁。
空へ突き刺さるような尖塔。
魔物の牙を思わせる装飾が施された門扉。
そこだけ、村の中とは思えない空気を放っていた。
それは屋敷というより、
まるで魔族の王が住まう城のようだった。
「……なに、これ?」
呆然とするアリアの前で、
重々しい門扉がゆっくりと開いた。
その奥から、メルヴァリスが歩いてくる。
「お帰りなさいませ、アリア様」
「いや……ただいま、じゃなくて……」
アリアは建物を見上げたまま、震える声で呟いた。
「私の家……どうなったの?」
「アリア様に相応しい建物へ、
変えさせていただきました」
メルヴァリスはどこか誇らしげに微笑む。
「こちらが、新しい拠点にございます」
「拠点っていうか……これ、お城じゃない……?」
「恐れ入ります。主様の居城としては、まだ控えめかと」
「居城って言った!?」
「控えめに仕上げたつもりですが」
「これで控えめなの!?」
驚き疲れたアリアをよそに、
ルミシェナが一歩前へ出た。
メルヴァリスはそこで初めて、
アリアの隣にいる女性へ視線を向ける。
「アリア様、こちらの方は?」
「あ、えーと……」
アリアは少し迷ってから、
ルミシェナを見る。
「彼女はルミシェナ。私の……仲間、かな?」
「主様はそう仰いますが、私は主様に仕える者です」
「……主様?」
メルヴァリスの表情が、ぴくりと動いた。
ルミシェナは落ち着いた様子で頭を下げた。
「ルミシェナと申します」
「アリア様を、主と呼ぶのですね」
「はい。私がお仕えすると決めた方です」
「奇遇ですね。
私にとっても、アリア様は主でございます」
アリアだけが、その場の温度が下がったように感じた。
「……え、なにこの空気」
アリアは、思わず一歩下がった。
「アリア様に仕える者が増えるのは、喜ばしいことです」
「はい。主様のお役に立てるよう努めます」
「では、まずは上下関係を明確にしておきましょうか」
「上下関係?」
「え、待って。何の話?」
メルヴァリスとルミシェナは、向かい合った。
二人とも笑っている。
なのに、アリアには少しも安心できなかった。
「アリア様」
メルヴァリスはアリアの方へ向き直り、静かに頭を下げた。
「この方の実力を確かめる許可をいただけますでしょうか?」
「実力を確かめるって……」
アリアは嫌な予感しかしなかった。
ルミシェナもまた、静かに一礼する。
「主様。私も異存はありません」
「いや、私はあるんだけど!?」
「軽い手合わせにございます」
「その軽いが信用できないのよ……」
アリアは額に手を当て、小さく息を吐いた。
このまま止めても、
二人とも納得しない気がする。
それに、ルミシェナの力を知っておく必要があるのも事実だった。
「……わかったわ」
「ありがとうございます」
「ただし、本当に軽くよ?」
「承知いたしました」
「はい、主様」
返事だけは素直だった。
返事だけは。
アリアは不安を抱えたまま、二人から少し距離を取る。
メルヴァリスは右手を軽く払った。
その指先に、赤黒い魔力が滲む。
「紅血刃」
ルミシェナも表情を変えず、ゆっくりと構えた。
「光衣展開」
二人の視線が交わった瞬間、
空気が張り詰めた。
「では、参ります」
メルヴァリスの姿が、地面を蹴った瞬間に消える。
次の瞬間、
赤黒い刃がルミシェナの首元へ迫っていた。
ルミシェナは一歩だけ横へずれる。
刃は空を切り、
そのまま背後の地面を浅く抉った。
「……速い」
アリアは思わず呟いた。
だが、ルミシェナも遅れていない。
回避した体勢のまま、
ルミシェナはメルヴァリスの腕を制するように手を伸ばす。
メルヴァリスはそれを読んでいたかのように、
体をひねって距離を取った。
二人は数歩離れて、再び向かい合う。
「なるほど。アリア様がお連れするだけのことはありますね」
「そちらこそ、主様に仕えるに相応しい動きです」
二人は穏やかに言葉を交わしている。
だが、アリアには、今にも本気でぶつかりそうにしか見えなかった。
「……二人とも、加減って言葉知ってる?」
アリアの不安そうな声など気にする様子もなく、
メルヴァリスが指先を向けた。
「緋刃鞭」
赤黒い血の鞭が伸び、
刃のようにしなってルミシェナへ襲いかかる。
「白紗結界」
ルミシェナの衣がふわりと広がり、
白い壁となって血鞭を受け止めた。
鋭い音が響く。
だが、結界は破れない。
「防ぎましたか」
「主様をお守りするための力ですので」
二人は無言で見つめ合った。
次の瞬間、
白い光衣が壁のように広がり、
赤黒い血鞭を何度も弾き返す。
衝撃が走り、
村の空気がびりびりと震えた。
「……これ、本当に加減してるのよね?」
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