夜更けの人々

夜更けの人々

夜更けの人々

高校を卒業したぼくにはなにもなかった

やりたいこともできることも

それでも自分の居場所を見つけねばと

どうにか見つけたのが夜の世界

呑んでは朝が来るのを待つだけの毎日

時間を浪費するだけの無意味な日々

そして気がつけばぼくは三十代になっていた

周りは結婚して子供ができて順風満帆

着実に大人の階段を上っているのに

ぼくだけはいつまで経っても子どものまま

中身は空っぽのでくの坊

それでもどうにか生きねばと

始めたのが一軒の呑み屋さん

やりたいから始めたというよりは

他に選択肢がなかったから始めただけのこと

お金は実家を担保に用意して

一端の大人を気取ってぼくは生きてきた

店とはいってもその日の売り上げを握りしめ

ただ朝まで毎日呑み歩いていただけだったが

それでも生きてる実感だけはなくしていなかったし

このままどうにかやっていければと思ってもいた

でもそうは問屋が卸してはくれなかった

なぜならぼくは恋をしたから

相手は店のお客さん

お互いに好意を寄せあっていたぼくたちは結婚した

両親はもちろん喜んでくれた

盛大に式もあげて実家の近くに部屋も借りて

なにもかもが上手く進んでいるように見えた

でもぼくはあのころと変わっていなかった

高校を卒業したあのころと同じ

結婚しても尚ぼくにはなにもなかった

じきに子どももできた

可愛い男の子だった

両親はもちろん喜んだ

ぼくたちも喜んだ

でもお金は日に日に減っていき

底を尽きるのも時間の問題だった

そんなとき父が亡くなった

マンションの建て替えで実家もなくなった

そのショックで母は倒れた

命は取り留めたけど意識はなかった

店は潰れていなかったけど未来はなかった

ぼくと同じようになにもなかった

妻はそんなぼくに愛想を尽かして出ていった

幼い我が子を連れてどこか遠くに行ってしまった

残ったのは今にも潰れそうな店だけ

ぼくは四十歳だった

でもぼくにはなにもなかった

あったはずのものはすべてなくなり

中年になった中身のない肉体だけが手元に残った

誰もいないカウンターでただ一人

煙草を吸いながら酒を呑むぼく

それでも人生は終わってはくれない

なにもないかもしれないけど

良くも悪くも死んではいなかった

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