第14話
「あっ! いたいた~! ソラぽんどこ行ってたの~?」
なんて今日のことを振り返りながら男子寮に向かって歩いていると、声が聞こえてきた。ハッと意識を戻すと、視界の奥、男子寮の前で手を振っている二人の女子生徒の姿が見えた。
「ん? メイチャン? それにポーラも。どうしたんだこんなところで。男子寮に侵入……なんてわけじゃないよな?」
侵入するつもりならこんなに堂々としていないだろうし、もっとこそこそしているだろう。
「んなわけないじゃーん。それとも侵入してほしかった感じだったりしちゃったり?」
「違いますよ? 私たちはその、大丈夫かなって思って心配になったんです……」
「大丈夫って……なにが?」
冗談を言って笑っているメイチャンの言葉を軽く流し、ポポが不安げな様子で尋ねてきた。けど、それだけじゃ何を心配しているのかわからない。考えられるとしたら……また迷子になってないか、とか?
何せ初対面が迷子だったし、朝の授業も迷子になって遅れたことになってるからなぁ。迷子の心配をされるのは仕方ないだろう。
「なにって、獣狩りのことだってば。ジャック何某が言いふらしてるからもうみんな知ってるよ~?」
ジャックと言い争いになって獣狩りをすることに決まってから四時間程度。意図的に広めてたならメイチャン達が知っててもおかしくないか。
「他の生徒達はみんな賭けのことで盛り上がってて……」
「賭け?」
「そそそ。獣狩りって、要は零獣退治なわけっしょ? しかもちゃんとした部隊のやつじゃなくて生徒同士の。まー今回は生徒同士って言っていいかびみょいところだけど、一応生徒同士で戦うわけでしょ? だから普通の部隊のものより生徒にとって勉強になるだろうってことで学校に中継されることになってるってわけよ」
「中継ねー……それで勝敗を賭けようってことか。でも学生の賭け事っていいのか?」
まあ零獣退治の現場を見せるってのは、零獣と戦うための軍人を育てる学校としては普通の考えだろうな。実際の炎人部隊が戦っている映像もあるだろうけど、それは既に完成された姿だ。生徒達にとっては目標とする姿ではあっても、真剣に我が事のように考えられるものではないだろう。
それに対して俺達の戦いの映像は、同じ生徒が戦ってる姿だ。自分たちと同じ立場の生徒が戦っているんだから、自分たちが戦うことになったらこんな感じなんだろう、と考えやすいだろうし、真剣に見るはずだ。
だから映像を中継されるのは良いんだけど、学園自体も噛んでいるイベントで賭けが発生しているのは大丈夫なのか?
「平気平気。最大ベットは決まってるから破産することなんてそうそうないし。それに、学校側としてもこれくらいのガス抜きはありなんだって」
「こ、この学校は街に出ることもできますけど、申請が必要なのでいつでも自由に出られるというわけじゃないですから……」
ふーん。まあ禁じたところで裏でやるだろうし、だったら公式でやって管理した方がいいってことになるのか。最大ベットがいくらなのか知らないけど、一万程度なら負けても破産なんてしないし、勝てば小遣い稼ぎになるだろう。
「酒は飲めねえしタバコも吸えねえ……かー! ストレスがたまるぜ! まあ、私はどっちもやらないんだけどね?」
酔客のような動きで大げさにおどけながら話しているメイチャンの姿はなんとも堂に入ったもので、その後に冗談めかして笑っていたけどまるで本当に不満を持っているかのように見えた。
「でもまあ、そんな感じで賭けがあるんだけど、そのオッズがアレだったからちょいっと心配になったんだよね」
「それってもしかして、俺達の方が倍率が高いのか?」
不安そうに眉尻を下げているポポとメイチャンの様子からして、たぶんそうなんだろう。俺たちの方が不利と判断され、倍率が上がっているんだと思う。
「そーだねー。今のオッズは知らないけど、さっき見た感じだと三十倍はいってるんじゃない?」
「おー。それだけ差があるのはやっぱり俺達の部隊について知られてるからか」
学生同士、という対等な立場のはずなのにそれだけの差がつく。むしろ俺達は学生でありながらも炎人部隊なんだからこっちの方が有利だと思われるのが普通のはずだ。
にもかかわらず俺たちの方が倍率が高いってことは、俺達は炎人部隊でありながらも問題のある者が集められた部隊なんだと知られているんだろう。
アーロンだって自分たちは悪い意味で有名だ、なんて言ってたしな。
俺とアウロラはこの学園に来たばかりだから何がどう問題なのかバレていないと思うけど、それでも同じ部隊に配属されるくらいだから何かしらの問題があると思われていると思う。
「だねー。欠陥だらけの寄せ集め部隊。学園は出来損ないの炎人もどきを集めて追い出そうとしている~、なんていわれてるくらいだよ」
「わ、私はアルバさんのことを出来損ないだなんて、思ってないですよ……!」
「私はってか、私たちは、ね」
ポポの言葉に苦笑しながらメイチャンも続いたが、この二人は昨日会ったばっかりの俺のことを本当に心配してくれているみたいだ。
「はは。ありがとな。でも、そんな話が広まってる割に賭けの倍率は低いんだな。五十倍くらいはいくと思ったんだけど」
何だったら百倍くらいいってもいいんじゃないかとも思うけど、三十倍でとどまっているってことは中にはこっちが勝つって思ってくれている奴もいるんだろうか?
「まー、仮にも炎人部隊だしねー。噂はどうあれ、炎人部隊として選ばれた以上は何かしら部隊として運用するに足るものがあるんじゃないか、ってことでなんかそんな感じになってる感じ~」
「部隊として足るものねー……」
問題があったとしても一応は炎人部隊だから、という理由は納得できるけど、かといって俺達に部隊としての力があるかと言ったら謎だ。何せ今日活動が始まったばっかりだし、問題があるのは間違いないんだからな。
まあそうは言っても、そこまで負けを気にしてはいない。
「実際どんな感じなの? いけそう?」
「まあそうだな。多分負けることはないよ」
正直なところ、この勝負では負けることはないと思っている。
敵が強い。部隊がまだまとまっていない。メンバーには問題がある。
そう言ったもろもろの問題があるのは理解しているけど、その上で俺達は負けないと言い切ることができる。
なんでか。そんなの、俺がその分頑張ればいいだけだからだ。
ジャックたちの部隊が強いっていっても、実際に零獣と戦ったことがあるわけじゃない。あくまでも学校の成績として優秀だってだけ。
ならやれる。学校の成績や単なる決闘じゃ負けてたかもしれないけど、零獣退治においては俺の方が経験が上なんだから。
「おっと~? 出場者自身から負けることはないとのお言葉をいただきました! 解説のポポさん。どう思いますか?」
「え? え、えっとー……ぜ、全額賭けます……!」
「全額って貯金全部? いやいや、無理だって。最大ベット決まってるって言ったじゃん」
「じゃ、じゃあ最大で賭けます!」
「いや……そこまで信用されると困るんだけど……」
いきなり賭けについて振られて答えに迷ったのかもしれないけど、流石に無条件で最大ベットなんてしなくていいよポポ。それに、絶対に勝つとは言い切れないし。
「でも負けないんでしょ? だったら勝ちに賭けるしかなくない?」
「賭けることは前提なのかよ……。まあほら。負けないとは言ったけど勝てるとも言ってないだろ?」
負けるとは思っていない。でも、絶対に勝てるってわけじゃないとも思っている。
「それってどういうこと? 無効試合になるとか?」
「あるいは引き分けだな」
俺が零獣を倒したとして、ジャック達も零獣を倒してたら引き分けになるだろ?
「引き分け~? ないない。だってどっちがより早く倒したか、なんだからまったく同じタイムってことはないでしょ。けが人の数によってタイムに加算されるけど、残ってる人数が同じでタイムも同じなんて普通に考えてあり得ないって」
「で、でもアルバさんがそういうんだったら何か理由があるんだと思うし、私は引き分けに賭けます……!」
メイチャンは俺の言葉を疑っているようで怪訝な表情をしているけど、ポポはまたも真剣な眼差しで断言している。そんなに信じてもらえるのは嬉しいことだけど、絶対にそうなるって言いきれるわけじゃないんだよなぁ。
「だからそこまで信用されると……というか勝ちと引き分け両方に賭けるのか?」
「まー、それでもどっちかが当たっただけで十分プラスにはなるけどね~。それだけ倍率に差があるし」
まあ三十倍だしな。俺が勝ったら三十倍で、引き分けだったら……もしかしたら百倍とか行くかもしれない。だとしたら両方に賭けたとしても余裕でプラスになる。
……俺も賭けておこうかな? ルナから初期資金はもらったけど、普通の学生の範疇だしそう大した金額じゃない。ここらで追加の資金があると後々安心できるんだよな。
「へー。じゃあ俺も賭けておこうかな?」
「八百長対策で無理で~す」
肩を竦めながら答えたメイチャン。その口調は軽いが、内容は事実なんだろう。メイチャン達に頼んで賭けてもらうこともできるけど、最大ベットが決まってるからなぁ。
メイチャンもポポも最大ベットまでかけるつもりみたいだし、俺が頼む余地はない。
他の生徒に頼むこともできるけど……他に知り合いいないし無理か。今回は諦めるしかないな。
「まあ、アレだ。心配してくれてありがとな」
まだこの学園に来て二日目だって言うのに、わざわざ心配してくれるためだけに会いに来てくれるなんてありがたいことだ。こんな二人に出会えたことは俺にとって幸福なことだし、二人には感謝しかない。
「き、気を付けてくださいね……」
「間違っても死なないようにね。それに、炎の使い過ぎにも気を付けてよ? 学生同士の戦いって言っても、ドームの外に出るんだから何があってもおかしくないんだからさ」
「わかってるよ。ありがとう」
そうして俺は二人との出会いに感謝しつつ、お礼を言ってから二人と別れて寮へと戻っていった。
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