人間とは何なのか。
この作品を読んで、そんな問いを考えました。
人間には、自分自身を超えたいという欲望と、決して超えられない人間性を抱えたまま生きるという二つの側面があるように感じます。
ドストエフスキーの『悪霊』に登場するキリーロフは、神を否定し、人間が自ら神になることで完全な自由を得ようとしました。
しかし、その思想は同時に、人間が持つ矛盾そのものを映し出しています。
一方で、『イワン・イリイチの死』では、死を前にした主人公が、それまで見えていなかった人生の意味や人間らしさに気づいていく。
一人は限界を超えようとし、もう一人は限界の中で人間を発見する。
その対比に、人間という存在の不思議さを感じました。
科学や思想によって世界を理解しようとしても、最後に残るのは「なぜ自分はここにいるのか」という問いなのかもしれません。
人間は神になろうとしながら、同時にただ一人の人間として生きている。
その矛盾こそが、人間の魅力なのだと思います。
異形ども統べし獣の王。転生者にして救世主たる黄金の血宿せしアンソニーは長き旅の末辿り着いた世界の最果てにて彼の者を倒した。かくて“獣の夜”は明けたのだが……132年後の世界に新たな魔王が誕生し、異世界より勇者が召喚されたことで状況は一転する!
幕を閉じたはずの救世主譚が新たな勇者譚に上書きされようとしている世界、アンソニーさんは勇者として召喚された少女、迎田エマさんと共に――とはならないのですよ。獣の王の時代の再来を防ぐため、彼は自ら危機へと向かうのです。
心奪われたのは、過去の時代から生きている者が彼だけであり、だからこそ魔王のことも同じ世界から来たのではないかというエマさんのことも、一から探っていかなければならないこと。そんな展開の丹念さと巧みさに加え、彼の「守りたい」意志が匂い立たせる成熟した大人の強さがいい! 逆巻く不穏のただ中で揺るぎない主人公像を輝かせられるのはまさに彼だからこそですよ。
さて、アンソニーさんが紡ぐ第二の物語の行方やいかに!?
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)