コメント失礼します。
「すぐ消す」と言いながら、そこに書かれている記憶は、決して消えていないのだと感じました。
深夜二時、白髪の増えた自分を鏡で見るところから始まる独り言は、派手な出来事を語っているわけではないのに、一つ一つの思い出がとても生々しく胸に残ります。英語の発音に驚いたこと、プールで慌てて救い上げたこと、肩車をして公園を歩いたこと。どれも小さな記憶なのに、だからこそ「父親だった時間」が確かにそこにあったのだと伝わってきました。
若月新一様の作品は、説明しすぎない短い言葉の中に、その人が抱えてきた後悔や痛みを静かに滲ませるところが本当に素晴らしいと思います。
だからこそ、「僕が泣かせたんだ」という一文がとても重く響きました。言い訳ではなく、ただ自分の未熟さを抱え続けている人の言葉に見えて、読後に静かな痛みが残ります。
朝には消されてしまうかもしれない呟きだからこそ、覗いてしまったこちらの心には、かえって深く残る掌編でした。