決着、そして……

第37話 決着、そして……


田中兄、体力千七百。


ハヤト、体力四百。


田中兄の場には、攻撃力三千の社畜パラレル。


『吊り革を持ち虚な目をする漢』


ハヤトの場に残っているのは、


『満員電車に揺れる亡霊』


そして、裏向き守備表示の、


『有給申請を握り潰された女』


誰が見ても、田中兄が圧倒的に有利だった。


田中兄は眼鏡を押し上げる。


「高瀬殿。次の勤務で、終わりでござる」


ハヤトは胸を押さえながら、ゆっくり身体を起こした。


「まだっす」


デッキの一番上へ指をかける。


「俺はまだ――退勤してないっす」


ノブオが背後で拳を握った。


「ハヤト!」


レンも、ハヤトの手元を見つめている。


「残り体力は四百。業務命令カード一枚でも削り切られる」


「うむ」


田中弟が眼鏡を押し上げた。


「さらに兄者の場には、攻撃力三千の『吊り革を持ち虚な目をする漢』が存在するなり」


クロエは腕を組んだ。


「同じ説明を二人でする必要ある?」


「実況と解説で役割が違う」


レンが答えた。


「どっちも解説してるようにしか聞こえないけど」


ハヤトがカードを引く。


「俺の勤務――」


勢いよく腕を振り抜いた。


「ドローっす!」


引いたカードを見た瞬間、ハヤトの目が大きく開いた。


ノブオが身を乗り出す。


「そのカードは……!」


田中兄がわずかに眉を動かした。


ハヤトはカードを手札へ加え、静かに息を吐く。


「まず、裏向き守備表示の『有給申請を握り潰された女』を攻撃表示に変更するっす」


カードを表に返し、縦向きに置く。


攻撃力、千四百。


「有給を握り潰されたうえに、戦わされるんだ」


アオイがカードを見つめる。


「まだ有給の話してるだけ、本人は何も悪くないのに」


「カードゲームだから」


クロエが言った。


「現実の会社みたいに心配しなくていいから」


ハヤトは一枚のカードを持ち上げた。


カードに描かれていたのは、書類の山に埋もれながら、なぜか晴れやかな笑顔で立ち上がる男だった。


疲労は限界を超えている。


目の焦点も合っていない。


それでも、両手だけは力強く握られていた。


「リーマンカード――」


ハヤトはカードを机へ叩きつけた。


「『辛すぎて逆に元気になる漢』を、攻撃表示で出社させるっす!」


読みは、つらすぎて。


攻撃力、二千五百。


守備力、二千。


ハート八。


レジェンド社畜。


「出た!」


ノブオが叫んだ。


「ハヤトの切り札!」


「つらすぎて……」


アオイがカードを覗き込む。


「この人、つらいのに元気なの?」


「つらさが限界を超えて、感覚が麻痺している」


レンが答えた。


「自分はまだ元気だと錯覚してるだけ」


「それ、元気って言わないよね?」


「社畜王では元気として扱う」


「嫌な裁定だね」


クロエが言った。


レイカは、カードに描かれた男の笑顔を見た。


「この人、笑ってるのに目が死んでるじゃん」


「限界を超えた者だけが到達できる笑顔でござる!」


田中兄が答えた。


「病院行きなよ」


「ギャル殿、カードに現実的な解決策を持ち込まぬようお願いするでござる……!」


ハヤトは、さらに手札から一枚を取り出した。


「業務命令カードを発動!」


カードを高く掲げる。


「『24時間働けますか』!」


「働けるわけないでしょ」


レイカが即答した。


ハヤトの手が一瞬止まった。


「カードに聞いてるんで、レイカさんは答えなくていいっす」


「質問されたから答えただけじゃん」


「発動したターン、リーマンカード一体の攻撃力を千上げる!」


『辛すぎて逆に元気になる漢』の攻撃力が、二千五百から三千五百へ上昇する。


「これで『吊り革を持ち虚な目をする漢』を上回った」


レンが言った。


田中弟が首を横へ振る。


「甘いなり」


田中兄の眼鏡が光った。


「そいつはどうかな、でござる」


「またそれっすか!」


田中兄は伏せていたカードを表にした。


「突発案件カード――」


カードを勢いよく開く。


「『Excelが全部消えた』を発動!」


部屋の空気が凍った。


カードには、真っ白になったパソコン画面を前に、頭を抱える会社員が描かれていた。


ノブオが両膝を床につく。


「全部……消えただと……?」


「ノブオ、Excel使ったことあるの?」


クロエが聞いた。


「ない」


「じゃあ立って」


田中弟が立ち上がった。


「『Excelが全部消えた』は、カード効果によって攻撃力が上昇した時に発動可能なり!」


「その上昇効果を無効にする!」


田中兄がハヤトのカードを指さす。


「さらに、そのリーマンカードの攻撃力を、元の数値から三百下げるでござる!」


『24時間働けますか』による上昇が消滅する。


『辛すぎて逆に元気になる漢』の攻撃力は、元の二千五百から、さらに三百下がった。


攻撃力、二千二百。


田中兄の『吊り革を持ち虚な目をする漢』は、攻撃力三千。


再び、田中兄が上回る。


「データが……全部……」


ハヤトが胸を押さえた。


「保存してなかったんすか……!」


「そこ?」


クロエが聞いた。


「こまめな保存は基本だ」


レンが厳しい表情で言う。


「レンまで会社員側に行かないで」


田中兄が笑う。


「これで高瀬殿の切り札は、ただ限界を超えただけの会社員でござる」


「元からそうだよね?」


クロエが言った。


田中兄が勝利を確信する。


「高瀬殿。即席デッキでここまで戦ったことは称賛するでござる」


「だが、現役環境と古き記憶の差は埋められないなり」


田中弟が続けた。


「次の兄者の勤務で、確実に――」


「まだっす」


ハヤトが言った。


田中弟の言葉が止まる。


ハヤトは手札に残った一枚を持ち上げた。


「まだ、俺の出社フェーズは終了してないっす!」


「何っ!?」


田中兄弟が同時に叫んだ。


ハヤトがカードを表にする。


「業務命令カード――」


机へ置いた。


「『深夜の甘すぎるコーヒー』を発動!」


カードには、砂糖とクリームが山のように入ったコーヒーを飲み、無理やり目を見開いている会社員が描かれていた。


「俺の体力を五百回復するっす!」


ハヤトの体力が、四百から九百へ上昇する。


「甘いコーヒーで回復するんだ」


アオイが言った。


「一時的に、自分はまだ働けると錯覚している」


レンが答えた。


「また錯覚」


「社畜王において、錯覚は重要な資源だ」


「嫌なゲームだね」


田中兄は、回復したハヤトの体力を見ても動じなかった。


「五百回復したところで、状況は変わらないでござる」


「その切り札の攻撃力は二千二百」


田中弟が続ける。


「兄者の『吊り革を持ち虚な目をする漢』には届かないなり」


ハヤトは静かに首を振った。


「違うっす」


「何が違うでござる?」


ハヤトは、すでに使用した二枚のカードを指さした。


『24時間働けますか』


そして、


『深夜の甘すぎるコーヒー』


レンの目が大きく開いた。


「揃った」


ノブオが吠える。


「二十四時間労働と、甘すぎるコーヒー!」


「最悪の組み合わせじゃん」


レイカが言った。


ハヤトは『辛すぎて逆に元気になる漢』へ手を置いた。


「このカードは、同じターンに――」


声を張る。


「『24時間働けますか』と、『深夜の甘すぎるコーヒー』を使った時、特殊効果を発動するっす!」


田中兄の顔から、余裕が消えた。


「ま、待つでござる!」


「『24時間働けますか』の攻撃力上昇は、Excelによって無効になったはずなり!」


「無効になったのは、攻撃力を上げる効果だけ」


レンが断言した。


「カードを使用した事実は残っている」


田中弟が震える手で規定集を開く。


ページを高速でめくった。


「現行裁定を確認……」


指が止まる。


「合法なり……!」


「そんな馬鹿な!」


田中兄が叫んだ。


「インチキ効果もいい加減にするでござる!」


「さっき俺も言ったっす!」


ハヤトの切り札が、再び立ち上がる。


Excelのデータを失い。


二十四時間働かされ。


甘すぎるコーヒーを流し込み。


つらさが限界を超えたことで、逆に元気になったと錯覚した男。


攻撃力は――


五千。


「五千!?」


クロエが目を見開いた。


「急に倍になったけど!」


「さらに、この効果を発動した『辛すぎて逆に元気になる漢』は――」


ハヤトが田中兄を指さした。


「相手の場にリーマンカードがいても、一度だけ直接攻撃できるっす!」


田中兄が、自分の場にいる切り札を見る。


「『吊り革を持ち虚な目をする漢』を無視するでござるか!?」


「つり革を握ったまま、横を通り過ぎる」


レンが答えた。


「悲しすぎるだろ!」


クロエが叫んだ。


ハヤトが右腕を振り上げる。


「勤務フェーズへ移行するっす!」


田中兄が後ずさった。


「待つでござる、高瀬殿!」


「待たないっす!」


「話し合えば分かるでござる!」


「社畜王に話し合いはないっす!」


「このゲーム、一応カードゲームだよね?」


クロエの声は、すでに誰にも届いていなかった。


ハヤトは、攻撃力五千となった切り札を田中兄へ向ける。


「『辛すぎて逆に元気になる漢』で――」


カードを振り下ろした。


「田中兄へ、直接攻撃っす!」


田中兄の体力は、千七百。


攻撃力五千の直接攻撃。


三千三百もの過剰なダメージが、田中兄を襲った。


「ぐおおおおおおおおっ!」


田中兄が胸を押さえ、大きく仰け反る。


眼鏡が宙を舞った。


「兄者ぁぁぁぁぁっ!」


田中弟が床を滑り、倒れる兄を受け止めた。


田中兄の体力が、ゼロになる。


「勝負あり」


レンが宣言した。


ハヤトが拳を握る。


「やったっす!」


「見事だ、ハヤト!」


ノブオがハヤトの肩をつかむ。


しかし次の瞬間、ノブオがハヤトの場を指さした。


「ハヤト! まだ『有給申請を握り潰された女』が残っているぞ!」


「そうだったっす!」


ハヤトが振り返る。


「まだ俺の勤務フェーズは終了してないっす!」


「何をする気?」


クロエが聞いた。


「『有給申請を握り潰された女』で、田中兄へ追加の直接攻撃っす!」


「兄者の体力は、すでにゼロなり!」


田中弟が兄を抱えながら叫ぶ。


「なら、動けない『満員電車に揺れる亡霊』も、気持ちだけで攻撃するっす!」


「気持ちはルールに入らないから!」


クロエが机を叩いた。


「もうやめて!」


全員の動きが止まった。


クロエは倒れている田中兄を指さす。


「田中兄の体力は、とっくにゼロだから!」


沈黙。


ハヤトが場のカードを見る。


「でも、まだカードが二体残ってるっす」


「残ってても終わり!」


「勤務フェーズが……」


「強制退勤!」


クロエの一言で、ハヤトはカードから手を離した。


「……はい」


レイカがスマートフォンを鞄へ入れる。


「クロエが一番、上司っぽくなってない?」


「誰のせいだと思ってるの?」


しばらくして。


田中兄が、田中弟に支えられながら身体を起こした。


眼鏡を拾い、再びかけ直す。


「見事でござる、高瀬殿」


田中兄は、まっすぐハヤトを見た。


「即席で組んだデッキから、あの組み合わせを完成させるとは」


「最後のカードは、運がよかっただけっす」


ハヤトは笑った。


「でも、久しぶりに本気で楽しかったっす」


田中兄も笑う。


「拙者もでござる」


二人は机越しに手を差し出し、固く握手した。


「いい勤務だったっす」


「最高の残業でござった」


「爽やかに言ってるけど、内容最悪だよ」


クロエが言った。


勝負が終わると、男子たちはすぐに机を囲み始めた。


「高瀬殿、なぜ『退職届を胸に秘めた男』を採用しなかったでござる?」


「入れようと思ったんすけど、即席だと体力調整が難しいと思ったんで」


「なるほど。古参らしい判断なり」


田中弟がうなずく。


レンは田中弟の記録用紙を覗き込んでいた。


「三ターン目の裁定だけど、『21連勤の女』の耐久記録は場を離れない限り残る」


「その通りなり。再出社した場合はリセットされるなり」


「現環境だと、直接除去が多い?」


「大会上位では『前任者しか分からない』の採用率が高いなり」


二人の会話は、急速に専門的になっていった。


ノブオもカードケースを開き、懐かしそうに中身を確認している。


「『終電を見送る女』も残っているのか」


「現役でござる」


「昔は、病院送りを肥やして一気に攻める型が強かった」


「今は、退勤妨害型と組み合わせるのが主流でござる」


レイカは、盛り上がる男子たちを見た。


「あんなに戦ってたのに、もう友達みたいになってんじゃん」


「男子は、こういうの早いから」


クロエが答えた。


「意味わかんない」


アオイも、カードを囲む男子たちを見ていた。


ハヤトは、田中兄弟やノブオ、レンと話しながら笑っている。


勝負の前まで、ほとんど面識がなかった相手と。


同じものが好きだというだけで、自然に言葉を交わしている。


「すごいね」


アオイが小さく言った。


クロエが隣を見る。


「何が?」


「好きなものが同じだと、すぐ仲良くなれるんだね」


「アオイも、毎回シバチーを見つけると知らない子どもと話してるでしょ」


「シバチーは別だよ?」


「本人たちも同じこと思ってる」


ハヤトが、アオイの視線に気づいた。


「柳生さんもやってみるっすか?」


アオイは机の上に並ぶカードを見る。


『気づいたら朝』


『21連勤の女』


『吊り革を持ち虚な目をする漢』


そして、


『辛すぎて逆に元気になる漢』


少し考えてから、首を傾げた。


「みんな、笑ってるけど……この人たちは、いつ幸せになるの?」


男子五人の動きが止まった。


レンがゆっくり口を開く。


「それは――」


言葉が出てこない。


田中弟も規定集を開いたが、答えは載っていなかった。


田中兄が胸を押さえる。


「ゲームの根幹に関わる問いでござる……!」


ノブオが天井を見上げた。


「俺たちは、何のために戦っていたんだ……?」


「やめて! 勝負が終わった後に全員へ致命傷を与えないで!」


クロエがアオイを止めた。


「私は聞いただけだよ?」


「悪意がないから余計に強いの!」


太郎はカードケースの前に立ち、髪を払った。


「ところで、僕をカード化する予定はないのかい?」


「ないでござる」


田中兄が即答した。


「効果を聞いてから判断したまえ」


太郎は胸へ手を当てる。


「僕が出社した瞬間、場にいるすべての女性リーマンカードは、その美しさに戦意を失う」


「会社に一番いちゃいけないタイプじゃん」


レイカが言った。


「そして男性リーマンカードは、僕への嫉妬で攻撃力を失う」


「全方面から訴えられるでござる」


「病院送りではなく裁判所送りなり」


「採用見送りだね」


クロエが話を終わらせた。


田中兄は、生徒会から渡された書類へ敗北を記入した。


「約束どおり、カードゲーム研究会は敗北を認めるでござる」


田中弟が判を押す。


「これで怪異研究同好会は、次の勝負へ進めるなり」


レイカが胸を撫で下ろした。


「じゃあ、マネージャーの話もなしね」


「幻のオタクに優しいギャル……」


「実在確認ならずでござる……」


田中兄弟が肩を落とした。


レイカは二人へ笑顔を向けた。


「安心して。あんたたちに優しくないだけだから」


「実在した!」


「希望は残されたなり!」


「その解釈がモテない原因なんだよ」


帰り支度を終え、怪異研究同好会の七人が部屋を出ようとした時。


田中兄が声をかけた。


「待つでござる」


振り返る一同。


田中兄は、ゆっくり眼鏡を押し上げた。


「気をつけるでござる」


声の調子が低くなる。


「拙者たちは、同好会四天王の中でも最弱……」


田中弟が兄の隣に並ぶ。


「残りの同好会は、我々など比ではないほど強力なり」


部屋に緊張が走った。


ハヤトが拳を握る。


「どんな相手でも、総帥の御心のままに戦うっす」


「また信仰が強くなってる」


クロエが言った。


そのまま田中兄弟を見る。


「確認なんだけど」


「何でござる?」


「対戦相手って、全部で四つだよね?」


「その通りなり」


「四つしかないから、全員四天王なの?」


田中兄が黙った。


田中弟がうなずく。


「その通りなり」


「誰が決めたの?」


田中弟は、隣の兄を指さした。


「今、兄者が決めたなり」


田中兄が眼鏡を押し上げる。


「雰囲気でござる」


クロエは扉を開けた。


「帰ろう」


怪異研究同好会の七人が部屋を出ていく。


扉が閉じた後も、廊下からハヤトたちの声が聞こえていた。


「次は演劇研究同好会っすね」


「即興劇で勝負するらしいよ」


「演技なら、僕の独壇場ではないか!」


「太郎が一番不安なんだけど」


声は次第に遠ざかり、やがて聞こえなくなった。


部屋に残った田中兄弟は、しばらく閉じた扉を見つめていた。


田中兄が息を吐く。


「負けたでござるな」


「完敗なり」


二人は、机の上に広がったカードを片づけ始めた。


「しかし、よい勝負でござった」


「高瀬殿とは、また社畜王をしたいなり」


その時。


こん、こん、こん。


扉が三回、叩かれた。


田中兄弟の手が止まる。


「合言葉を述べるでござる」


返事はない。


代わりに、扉がゆっくりと開いた。


逆光の中に、二つの人影が立っていた。


一人は、穏やかな笑みを浮かべた男子生徒。


もう一人は、黒い長髪を揺らしながら微笑む女子生徒。


久世雅臣。


白峰綾乃。


「やあ」


久世が柔らかく片手を挙げた。


「良い勝負だったようだね」


田中兄弟の顔から、血の気が引いた。


「せ、生徒会長殿……」


「書記殿まで、どうしてここに……?」


白峰は答えず、抱えていた黒いファイルを開いた。


中から、一枚の紙を取り出す。


紙の上部には、太い文字で書かれていた。


『カードゲーム研究会 廃止手続届』


「勝敗の報告は、すでに確認しております」


白峰は、いつもの穏やかな笑みを崩さない。


「規約に基づき、処理を開始いたします」


「しょ、処理……?」


田中弟の声が震えた。


久世は室内へ足を踏み入れた。


その背後で、扉が静かに閉まる。


「約束は約束だからね」


柔らかな声だった。


だからこそ、逃げ道がない。


白峰は書類を机へ置いた。


「署名欄はこちらです」


「待つでござる!」


田中兄が立ち上がった。


「せめて、デッキの整理が終わるまで猶予を!」


「カードの私物は、すべて持ち帰っていただいて構いません」


「異議申し立ては可能なり!?」


「申立書も用意しております」


白峰は、黒いファイルから別の紙を取り出した。


久世が楽しそうに笑う。


「さすがだね、白峰君」


「会長の御心のままに」


「退路が一つもないでござる!」


田中兄弟の叫びが、閉ざされた部室に響いた。


廊下には、誰もいない。


しばらくして、室内の照明が消えた。


翌朝。


生徒会室前に掲示された同好会一覧から、


『カードゲーム研究会』


の文字だけが、跡形もなく消えていた。


第一戦。


カードゲーム研究会。


勝者――怪異研究同好会。


敗者の行方は、まだ誰も知らない。


次なる相手は、


演劇研究同好会。

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