風もないのに、一部の枝だけが揺れる。
葉が擦れ合い、まるで「いらっしゃい」「バイバイ」と語りかけてくる。
宮古島を愛し、何度も訪れてきた作者さんご夫婦は、ホテルの庭に立つ大きなガジュマルが気に入り、毎日のように挨拶を重ねていました。
それは最初、旅先で見つけたお気に入りの木との、ささやかな交流だったはずです。
けれど、声をかけるたびに返事をもらっているような気がしてくる。
もしかしたら、本当に誰かがそこにいるのかもしれない。
そんな想像が、少しずつ現実味を帯びていきます。
そして、ある夜。
ホテルの部屋で起きた説明のつかない出来事に、さすがの作者さんも――正面から立ち向かうことはせず、「何もみなかった」ことにしてしまいます。
いや、そこで布団を被って、そのまま眠れるのですか!?
と驚きながら、思わず笑ってしまいました(笑)。
翌朝、旦那様へ恐る恐る話してみると、返ってきた言葉もまた、あまりにも自然なものでした。
普通なら、部屋を替えてもらうか、すぐに逃げ出してもおかしくありません。
それなのに、ご夫婦はその出来事を恐ろしい怪異として突き放さず、まるで仲良くなった存在のいたずらを受け入れるように、その後も宮古島での時間を過ごしていきます。
このご夫婦、やっぱり強すぎます(笑)。
けれど、その朗らかな受け止め方があるからこそ、本来なら怖いはずの出来事が、どこか可愛らしく、温かな思い出へと変わっていくのだと思いました。
怖いはずなのに、どこか可愛い。
偶然かもしれないのに、信じてみたくなる。
それはきっと、作者さんご夫婦が毎日ガジュマルへ親しみを込めて声をかけ、目には見えない存在との小さなご縁を、大切に受け取っていたからなのでしょう。
果たして、ホテルの夜に何が起きたのか。
そして、ガジュマルとの奇妙な交流は、どのような形でお二人の旅の思い出になったのか。
静かな怖さに身をすくませ、作者さんご夫婦の反応に笑い、最後には少しだけ精霊の存在を信じてみたくなる、宮古島で生まれた不思議で温かな実話エッセイです。
皆様もぜひ、大きなガジュマルへそっと挨拶をしてみてください。
ただし、返事が聞こえたその夜は――
何が起きても、見なかったことにできる覚悟をお忘れなく(笑)。