第30話 オーガ、そのタフネス

 二日後、俺達は万全の態勢を整えてオーガ討伐に出かけた。場所はここから徒歩で約5時間。目指すはアルザスブールの北にあるドュミネイの丘。


 広く薬草の自生する地であり、環境破壊を伴う氷の嵐アイスストームは本当に最後の手段だ。


 小動物も多いため、それを餌とする魔物もいる。そんな中でオーガは見晴らしのいい場所に陣取っているそうだ。


 つまり、隠れての奇襲は困難。遠くから毒矢を当てれればいいが、うちのパーティに弓矢を扱える者は誰もいない。


「うーん、距離300メートルってとこですねぇ……。しかも薬草の群生地をベッド代わりとはねぇ」


 シャルが遠視ウィザードアイを用い、遠くのオーガを確認する。


「よし、じゃあこの辺りに落とし穴を掘るよ!」


 スコップを用い、全員でひたすら穴を掘る。俺も念力を使いお手伝いだ。


 1時間程でできた穴は、深さ1メートル60センチ程。幅は半径約2メートルとかなり広い。その穴に木製の杭を逆さまに刺していく。ここに落ちればこの杭にぶっ刺さる、という寸法だ。


 全員が上に上がった後、俺はその杭に毒を振り撒く。食用じゃないんだし、このへんは容赦なしだ。


 そして、その穴をエマが防壁プロテクションの魔法で塞ぐ。祝福されし者の杖無しなので、オーガが踏めば壊れること必至だ。


 オーガの体長は約6メートル。どう考えても壊れるだろう。


 その上に土をかけ、カモフラージュする。両脇に逸れないようにするため、そっちは祝福されし者の杖を使用した防壁プロテクションで塞いでしまうのだ。


 後はここに誘い出し、落ちたところを集中砲火。弱ったところをソニアが後ろから首を刺せば、さしものオーガも息絶えるだろう。


「よし、じゃあ行ってくる!」


 そして誘い出すのは俺だ。


「気をつけて!」

「無理だと思ったら空に逃げろ」


 皆の声援を背に、俺はオーガに向かっていった。


 距離100メートル。


 オーガは呑気に横になっている。絶好のチャンスだ。


 俺は上空から近づき、大量の矢を念力で浮かす。もちろん矢にはコノトキシンが塗ってある。


 距離50メートル。


 ここからなら外さない。

 練習したからな!


「覚悟しろオーガ……」


 用意した矢、全てに運動エネルギーを付与。矢はオーガを狙い、一直線に飛んでいった。


 ドスドスドスドスッ!


 多くの矢がオーガに突き刺さる。


 オーガがゆっくりと立ち上がった。同時に矢は刺さりが浅く、ほとんどが抜け落ちる。残りの刺さった矢も雑に引き抜くと、ポイッと後ろに投げ捨てた。


 目が合う。


 そこそこ出血はしている。毒はちゃんと入ったはず。まだオーガの身体に変化は見られない。


 オーガが深く息を吸い込んだ。

 威圧の咆哮が来る!


 俺はすぐさま収納から大量の水を取り出し、大きな水球を作ると、その中へ逃げ込む。


 水球の中からオーガの叫ぶ姿が見えた。水の中なら音は通りにくい。


 しかし、オーガの咆哮は俺の水球の大半を吹き飛ばす。

 そして聞こえた。

 耳をつんざく咆哮。ほんの終わり際だけだったのだろう。


 それでも俺の動きはワンテンポ遅れてしまった。


 ビリビリと響き渡る咆哮が、俺の身体を射竦めたのだ。


「くっ!」


 飛行スキルではなく、念力で自らの身体を動かす。そしてエマの待つ落とし穴目指して逃げた。


 オーガは叫びながら俺を追う。

 速い!


 ならば……!


「運動エネルギー付与! ここまで来やがれ!」


 俺は速度を上げ、逃げる。落とし穴まで後100メートル!

 チラリと後ろを見る。オーガはちゃんと俺を追いかけていた。


 後50メートル。


 30メートル。


 10メートル!


 後少し!


 俺は勝った、と思った。

 しかしオーガは、先頭のブランシュを見て高くジャンプした。


 まずい!


「総員散開!」


 シャルが素早く指示を出し、皆が退避する。

 高く飛び上がったオーガは、俺を飛び越えて着地と同時に地面を殴りつけた。


 地響きが鳴り、土砂が飛ぶ。


氷結烈砲アイスバースト!」


 シャルがオーガ目がけて魔法を放つ。氷の嵐アイスストームを除けばシャルの最大火力だ。


 俺も負けじと、高く飛んで雷を生み出す。バチバチッ、と俺の両手の間に火花が発生。


「これでも喰らえ!」


 激しい轟音とともにオーガに雷が落ちる。


防壁プロテクション!」


 エマがオーガとの間に防壁を張る。


 オーガの表皮は凍りつき、火傷の後も見られる。電撃を受け、肉体にもダメージを受けたはずだ。




「フンガーーーッ!」


 しかしオーガが叫ぶと張り付いた氷は剥げ落ち、まだまだ元気だと言わんばかりに両腕を高く掲げた。


 まだ毒の症状も見えていない。


 その圧倒的タフネスは、俺の常識を遙かに超えていた。


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