第15話 大バカ野郎
グリフォンの爪がエマを襲う。
「させるかぁっ!」
俺は身を呈してグリフォンの顔に飛びつく。
「これでも喰らえっ!」
俺はアンモニアを生成。グリフォンの鼻にぶつける。
刺激臭にやられないよう、すぐに息を止めた。
はっ、さすがのグリフォン様もこの刺激臭はキツイか?
吸えば粘膜やられるからな!
ギィィィッ!
怒り狂ったグリフォンが俺の腹を嘴で突くと、巨大な羽根で俺を叩きつけた。
「ぐぅっ……!」
強い力で弾かれ、俺は林道に強く身体を打ち付ける。そのままゴロゴロと転がり、しばらくしてようやく止まった。
ううっ……、か、身体が痛くて動かない……。
全身打撲に擦り傷、おまけに腹は抉られ、服が血で染まっている。
バサッバサッ……。
羽ばたく音が遠のいていく。
助かった……、のか?
「ヴェル、大丈夫!?」
薄れゆく意識の中、エマの声が耳に残った。
気が付けばすでに夜だった。
腹の血は止まっているけど、この服はもうダメだな。気に入ってたんだけどなぁ。俺の横で寝ているのはブランシュだ。腕枕をしてくれていたらしい。
まだ身体がズキズキするが、傷はほぼ塞がっていた。
俺はテントの外へ出る。
エマとソニアが火を焚いて不寝番をしていたようだ。
ここは……、あの川か。集落で泊まらなかったんだな。
「ヴェル、もう大丈夫なの?」
エマが俺に気づき、声をかける。
「うん、まだ少し痛むけど平気」
「そうか、随分無茶をしたな。だがおかげで助かった。ありがとう」
ソニアが頭を下げる。
「うん、無我夢中だったからね。一か八かだったけど」
「なにをしたんだ? グリフォンが慌てて逃げるなんて、よっぽどだと思うんだが」
「あー、あれね。強烈な臭いをする液体を生み出してぶつけたんだよ。それ吸っちゃうと喉の粘膜がやられるくらい強力なやつ」
至近距離だったから自爆覚悟だったけどね。量を調整すれば、今後いい武器になりそうだ。
「こ、怖いなそれは」
「そういえば依頼はどうなったの? ヒポグリフは討伐したよね?」
「それなんだが、ヒポグリフはヴェルが持ってるだろ? だから証明はできないし、なによりグリフォンがいたからな。グリフォンも馬を好む。だから根本的には解決していないし、ギルドに報告する必要ができた」
「つまり、街に戻ると。できる限り早く」
この川まだ来たってことはかなり急いで来たのだろう。俺が気を失っていたから食事だってロクに摂れてないかもしれない。
それでもソニアは集落のことを優先したんだな。
「そういうことだ。グリフォンが集落を襲えば大変なことになる。すぐに助けを要請しないといけない」
「そうだよ。グリフォンにとって馬は食用ってだけじゃないの」
食用だけじゃない?
ソニアが凄く深刻な顔をしている。一体どういうことなんだ?
「そう。これが急いでいる一番の理由なんだが……。ヒポグリフはな、言うなればグリフォンと馬の間にできる魔物なんだ」
「マジか……」
なんちゅうはた迷惑な魔物だ。
「ああ。通常、生まれてもグリフォンの庇護下にいることはない。グリフォンにとってはただの戯れで、親子の情はないと言われている」
「うん、これはレアケースなの。だからこうなるなんて思わなかった」
ん?
ということは、もしかして……。
「ねぇ、その集落、先にグリフォンに襲われたことあるんじゃない?」
「……それはギルドで調べてもらうことになるな。恐らく黒だろうが」
「それよりヴェル、悪いけど明日朝御飯用意手伝ってね。みんなお腹ペコペコなはずだから」
あー、やっぱりか。
よし、朝はご馳走を用意しよう。若いんだし、食べられるだろう。
「だな。だから先に休め」
「わかった、そうするよ」
俺はテントに戻り、そのまま眠りにつく。とにかく、みんな無事でよかった……。
朝御飯を食べ終え、俺達は街を目指した。あの川から片道約4時間。休まず歩き、ようやくアルザスブールに辿り着く。
真っ直ぐ冒険者ギルドに向かう。緊急ということで順番を譲ってもらい、すぐに受付嬢に報告した。
「グリフォンですって!?」
その報告を聞き、受付嬢が声をあげる。周りの冒険者もざわつき、顔を見合わせている。
「ああ。実際に襲われたからな」
「よく生きて帰れましたね」
受付嬢がやや呆然としている。やはり相当危険な魔物のようだ。
「ヴェルが頑張ってくれた。本当に危ないところだったよ」
「そうですね。グリフォンはBランクですが、指定危険モンスターでもあるんです」
なるほど、Bランクか。俺達じゃ絶対勝てんな。
「指定危険モンスターって?」
「特に攻撃性の高い、Bランク以上の魔物を指します。つまり、見つけ次第討伐隊を組む必要のある魔物ということです」
「ちょーっと待ったぁ!」
受付嬢が書類を用意しようとすると、待ったがかかる。
この声は……。
「トビさん!」
ドワーフのトビさんだ。後ろにいるのは相棒のダンカンさん。虎の獣人だ。虎カッコいいよなぁ。
「グリフォンとはたぎるじゃねぇかおい。その討伐、俺達『乾杯』が請け負おう」
「え、しかし……!」
おおっ、トビさんが受けるのか。でも受付嬢は難色を示してるな。
「グリフォンとは一度戦ったことがある。任せておけ。それよりお前ら、グリフォン討伐手伝ってくれねぇか?」
「前に出る必要はない。治癒魔法などの補助をお願いしたい。それと、道案内もな」
あ、そっか。確かに道案内必要だよね。それにBランクの戦い、俺も見てみたい。
「それにせっかくのグリフォンだ。全部持ち帰りてぇ。わかるよな?」
なるほど、俺の収納を使わせろ、ってことね。そういうことならお安い御用だ。
「そういうことなら喜んでお願いしたい。力を貸してください」
その申し出をソニアは頭を下げ、お願いした。
「違う違う。お前らが、俺たちに、力を貸すんだ。礼は弾むぜ? なぁ兄弟」
トビさんがチッチッチ、と指を立てて振る。
「無論だ。グリフォンか。力の象徴としてどちらが相応しいか、虎の獣人として負けるわけにはいかん」
ほほう、つまりグリフォンも虎も勲章か国旗のデザインとしてある、ということか?
「ほほぅ、お前さんこの一戦に威信を賭けるかぁ?」
「当然だ。グリフォンを狩った金で祝杯をあげるぞ! その日は俺達の奢りだ、みんな期待して待っていろ!」
ダンカンさんが勝利宣言のように皆に言い渡す。その宣言に皆が一斉に歓声をあげた。
「はっはぁ! みんな信じろ、俺達が勝つ! 俺達は『乾杯』、美味い酒に命を懸ける大バカ野郎だ!」
トビさんが豪快に笑う。
ギルド内はトビさんとダンカンさんのコールであふれる。
俺は、その二人の大バカ野郎を見て武者震いするのだった。
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