第19話 王女とロマン武器
ヴィルベシュレに来訪した日から、数日が経過していた。
娘に甘い国王の余計な計らいのおかげで、
今回の旅程には随分と余裕がある。
初日で本来の任務を終えてしまった蓮とレイシアは、
「せっかくだから」と割り切り、
観光を兼ねて工業都市の旅を満喫していた。
「ちょっと蓮、見て頂戴! あれ、凄いわ!」
街中を見回っていた時、
大手霊機甲メーカー『SAMインダストリー社』の新製品売り場の前で、
レイシアがピタリと足を止め、
目を釘付けにしていた。
蓮は
(多生わがままとは言えど女の子だし、綺麗なアクセサリーかドレスでも見つけたのかな)
と思いながら、彼女の背後から展示品を覗き込んだ。
──そして、言葉を失った。
そこにズラリと並んでいたのは、
超重装甲を一撃で穿つ『パイルバンカー』や、
絶大な破壊力を誇る『ドリル』といった、
およそ一般受けしない【実用性の低いロマン武器】の数々だった。
(大丈夫か、このメーカー……)
蓮は思わず声に出してツッコミそうになるのを必死で抑えた。
一応、レイアーク王国が国費を投じて助成している企業なのだ。
お国自慢の新兵器にケチをつけるわけにはいかない。
「あの……レイシアさん。」
「それらの武器は確かにロマンがありますが」
「実戦での取り回しが最悪で」
「使いこなすには狂気的なまでに高い技量を必要としまして……」
「何よ蓮、私じゃあの武器を使えないって言うのかしら?」
「 侮ってもらっては困るわね!」
「いや、レイシアさんはおろか」
「あのカインさんを連れてきても十中八九使いこなせないと思いますよ」
流石に、レイシアが全幅の信頼を置いている
王国最強の幼馴染を引き合いに出せば、
どれだけ扱いが難しいか理解して諦めるだろう。
──蓮はそう考えて説得を試みた。
だが、返ってきたのは全く予想外の答えだった。
「つまり……これらの武器を完璧に使いこなせば、私はカインとは『違う方向性の強さ』を持てるということね!?」
フンス、と鼻息を荒くし、目をキラキラと期待に輝かせるレイシア。
「店員さん!」
「はい!」
「これ、試し撃ちはできる?」
「できません」
「そう……」
レイシアが露骨に肩を落とす。
「レイシアさん…」
「だって撃ってみないとどんな感じか分からないでしょ!」
なんとかレイシアにロマン武器の難しさを伝えようと
蓮が店員に質問をする
「ちなみに命中率は?」
「熟練者でも三割ほどです」
「三割」
「はい」
「つまり七割は当たらないと」
「そうなります」
「燃えてきたわね」
「どうしてですか!?」
結局、彼女の熱意に押し切られる形で、
最終的には予算の都合もあり『パイルバンカー』を
1つだけ購入する羽目になった。
蓮は(あの美しい海のオリジンズ『ネフティア』の一体どこにこれを装備するつもりなんだろう……)
と遠い目をするしかなかった。
ただし、蓮の方は蓮で…
「蓮、それ何?」
「チャクラムです」
「投げる武器?」
「ええ」
「使えるの?」
「たぶん」
「たぶん?」
「まあ、人並みには」
店員が驚き声をあげる
「チャクラムを実戦で使う人って始めて見たんですが…」
カスタム武装である『円月輪(チャクラム)』を購入していた。
だが彼ほどの技量があるのであれば、
扱いの難しいこの武器でも手足のように使いこなせるのだろう。
そんな、トラブルというほどでもない穏やかな出来事が起こった日の夜。
蓮たちは再び、街の外の荒野にある『孤高の妖精』の根城を訪れていた。
頭目であるメリッサの人間性や人望を見て、
今後とも良好な関係を築いていけるとレイシアが判断したためだ。
すっかり打ち解けたレイシア、蓮、メリッサの3人は、
酒を酌み交わしながら談笑を繰り広げていた。
その最中、気持ちの良くなったレイシアが、
とんでもない約束を口にした。
「──よろしいわ。私、レイシア・レイアークの名において、メリッサ・ホワイト。貴女に掛けられた王国からの懸賞金の撤回を約束します!」
「ちょ、ちょっと、レイシアさん!?」
蓮が慌てて身を乗り出す。
そんな蓮を余所に、
メリッサはグラスを傾けたままニヤリと不敵に笑った。
「へぇ……。お嬢ちゃん、ただ者じゃないとは思ってたけどさ。」
「そうかい、本物の王族様だったわけね」
「身分を隠していたことは謝罪します。」
「一応、メリッサさんたちが『盗賊団』という立場である以上」
「最初から王女だと明かすのは危ぶまれると思いまして、敢えて伏せていました」
「ま、そりゃそうだね。アタシがひねくれた悪党なら、人質にでもしてたところさ」
「──それより、懸賞金の撤回ってのは本当なんだろうね?」
「ええ。レイシアさんはこう見えて、一度口にした約束は命に代えても守る方ですよ」
直後、レイシアから「『こう見えて』って何よ!」
とポカポカ叩かれて怒られたりしたが、
メリッサはさほど気にする様子もなく、
大らかに笑った。
『孤高の妖精』のメンバーたちも、
自分たちの義賊としての活動が一端とはいえ国に認められたことに安堵し、
アジトは前回以上の和やかな大宴会に包まれたのだった。
酒宴は深夜まで続いた。
義賊たちは笑い、歌って
王女は上機嫌でグラスを掲げる。
それは久しぶりに訪れた、
誰もが肩の力を抜ける穏やかな夜だった。
しかし――
その頃。
ヴィルベシュレの荒野を見下ろす岩山の頂。
月明かりの下で、
黒い霧を纏った人影が静かに立っていた。
その視線の先にあるのは、
孤高の妖精の根城。
「……確認完了」
誰に聞かせるでもなく呟く。
足元では、
漆黒の霊機甲たちが、
まるで主の命令を待つ猟犬のように静かに跪いていた。
「始めろ」
その一言と共に、
荒野に黒い霧が広がり始める。
それを知る者は、
まだ誰もいなかった――
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