第8話 都電廃止の話
高田馬場駅前停留場に新塗装の路面電車が入って来る。都電戸塚線だ。
お互いの距離感が読めないまま、二人の高校生は都電に乗ろうとした。
「あ、いいよ、今日は私が突然来ちゃっただけだし、ここでお別れしましょう」
「いや、いいよ。女子を一人で帰す訳には行かねえだろ」
「もう、本当に君は・・・・女子目線だと、男前に見えるんだよね」
「え?」
「なんでもない。それじゃ、送ってもらおうかな」
そう言って、二人は都電の車内に入る。
高田馬場からは茅場町方面へ向かう始発であるため、帰宅ラッシュ時でありながら、二人は座ることが出来た。
「結構混んでいるね」
「ああ、この時間はな」
「ねえ、知ってる? 都電廃止の話」
「廃止?」
「うん、なんか進んでいるって話よ」
「本当かよ、そりゃ困るな、通学でも使うんだが」
「そうよね。国鉄でも乗り継げば行けるけど、やっぱり都電が便利だし」
都電が廃止になるなんて、初めて聞いた一二巳である。
こうしてかつての戦友と、変わりゆく東京を見つめている不思議な時間。
それでも、感傷に浸っている訳には行かない。
聞かなければならない話が沢山あるではないか。
「なあ、三宅は何月くらいに出撃したんだ?」
「え? ・・・・君のすぐ後だよ」
「ちょっとおかしな事を聞くが・・・・俺の出撃って覚えているか?」
「うん・・・・昭和20年4月28日」
「そっか、やっぱり4月28日なんだな」
「どうしてそう思ったの?」
「俺、誕生日が4月29日だから」
「4月29日、そうか、天皇誕生日!」
「まったく、エライ日に生まれたもんだ」
そう言って笑う一二巳であったが、椅子に並んで座ると、祈里の華奢な肩が微かに触れて心臓が高鳴って仕方がない。
うっかり祈里に気付かれるのでは、と心配になるほどに。
そんな気持ちを他所に、都電は遠慮なく揺れる。
交通量が増えて、以前に比べると急減速することが多くなった。
それでも、都心をゆっくり進む都電のリズムは、時代に取り残された一二巳自身と重なった。
祈里を見て、自分はどんな人生を送るのだろうと、ぼんやり考えてしまう。
「多分、坂東君が、一番最後なんじゃないかな」
「え?」
「・・・・出撃が」
「・・そうか」
どうやら、特攻の順番は、先に井上一二巳、二番目に
なら、多分知っているはずだ。
自分の中に燻っている、一人の女性の事を。
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