作者の志乃亜サク氏は、ギャグ小説から本格ファンタジーまで幅広い作風を持つが(とはいえ九割五分はギャグ時空で生きている)、本作は彼の得意とする惚けたセンスの笑いをてんこ盛りにした連作短篇である。
ジャンルはホラーだが、幽霊が出てくる以外にホラー要素はゼロだ。何なら出てくる幽霊の幽霊要素も超薄い。壁抜けせずに普通に玄関から入ってきて、ちゃぶ台で買ってきたアイスを食う。一応姿を消せるという幽霊ギミックはあるが、しっかり実体があって階段から落ちるとダメージを受けるし、ある幽霊は筋肉で全てを解決するし(しないけど)、お金はどうしてんだろうと思うとバイトで稼いでたりする。呪いのビデオから出現という幽霊らしいことをした子も、テレビから出たあと落下して痛みに悶える(それでも彼女は霊的な技を使える分、霊格が高いらしい)。連れ立って勝手に主人公のアパートにたむろする姿は、ただの距離感がイカれたご近所さんにしか見えない。
そんなボケと笑いに満ちた日々がこれでもかと繰り返され、幽霊付き物件だけどマジで楽しいだろうなと羨ましくなる。だが何故か、作品世界には全く滲み出ない哀愁が、読み手の脳裏を掠めていく。たぶんそれは作者が描き出すボケまみれの日常があまりにも楽しいために、そこに過ぎ去った楽しかった日々、例えば小学生の夏休みのような終わりなき日々を重ね合わせ、勝手に抱いた感情だ。作者が描き出す登場人物たちと彼らが織りなす日常が、手を伸ばせば届くかもしれないと思えるほどに真に迫っているからだろう。
腹の底からゲラゲラと笑える滑稽譚にして、年古りた者には過ぎ去りし何時かを思い起こさせずにはいられない、不思議な魅力のある作品だ。
【レビューコンテスト応募】