6. 失ってはじめてわかる大切なもの
それから俺のニート生活が始まった。
突然のクビに、労基に駆け込もうかとも考えたが、どう考えてもそんな勝負で神城さんに勝てるわけはないので、早々に諦めた。
数日は身体も動かせない状態だったので、車のローンをどうするか、悩みながらもだえていた。とりあえずわずかな貯金で少しの期間はしのげるはずだ。その間に仕事を探さねえと。
俺がダイレンジャーで働いていたのは3年ほどだ。
ヒーロー免許とって、そのままダイレンジャーに入って、神城さんと赤星さんに一からしごかれて、入社1年ほどでブルーレンジャーに任命されて、そこから100回は死にそうになりながらなんとか生き延びてきた。……やっぱし労基にかけこんでもいいような気もしてきた。
ただ思い返すと、充実してたよな、って思う。
ずっとヒーローになりたかった。
困ってる人を助けて、感謝されて。
思い返せば、いろんな人の顔が浮かんでくる。
いつもぶっきらぼうな神城さん。
人を困らせた時に小悪魔のように微笑む神城さん。
人が窮地に立つと腹を抱えて笑いころげる神城さん。
何かにつけては減給と言ってほくそ笑む神城さん。
そして、どんな危険な任務でも自分のところに帰ってくるのが当然と、こっちも見ずに「おけえりー」と素知らぬ顔の神城さん。
ダメだ。
神城さんの顔しか出てこねえ。
あんな至高の美人が身近にいたら、他の奴の顔なんかどんどん上書きで消されちまう。
失ってはじめてわかる大切なもの。
ありきたりだけど、かみしめていた。
自分にとって、神城さんのために働く時間がどれほど大切だったか。
靴をなめてでも、すがりつくべきだった。そんなことをしたら、つま先で蹴り倒されるだろうが。
一度神城さんを知ってしまったら、神城さんを知る前には戻れないのだ。
自分がどれほど愚かだったのかを知った。
俺はもう自分がレッドになれなくてもいいと思っていることに気づいてしまった。
俺はイエローでもいいから、神城さんのために働きたいと思っている。死ぬまで。
とんでもねえ中毒性だ。
レッド選抜試験から数日経ち、体力も回復し、土下座の練習をしていた時だ。
なんの気なしにつけてたテレビで地方ニュースが流れていた。
そこで豊橋のナンバーワンヒーロー、ダイレンジャーのニュースが流れた。
まず赤星さんなき後のレッドレンジャーは火野さんが引き継ぐことになったとのことだ。
俺が倒れた後、何が起こったのか知る由もない。
あの炎は結局火野さんだったのかな。
俺が知ってるより、じつは火野さんはすごい人だったのかもしれない。
火野さんが豊橋のために、だとか、子どもたちの憧れのヒーローに、だとか通り一遍の問答をしているのを聞き流して、俺はニュースを凝視していた。
俺の中の神城メーターが枯渇していた。とにかく神城さんの姿を見たい。このあと絶対に神城さんのインタビューも流れるはずだ。
火野さんのインタビューが終わり、次の画面に切り替わったとき、衝撃が走った。
確かに神城さんの話題だったが、テロップに書かれていたのは、「神城司令、行方不明」の文字だった。
しかも、豊橋駅直下のあのヒーロースタジアムの光景が流れて、原因不明の爆発と言い出した。
あれからもう数日経ってるんだぜ。今さら、何言ってんだ?
テレビのキャスターがこの爆発に神城司令が関わっているかもしれない、また機密情報を持ち出した可能性がある、などなど言い出した。
神城司令を見かけたら通報をお願いしたい、と。
なんだ、何が起きてる。
神城さん、あんた今どこで何してる?
そのとき、アパートのインターホンが鳴る。
神城さんの顔が頭をよぎり、俺は慌てて玄関に駆け込み、ドアを開けた。
よほどの形相を俺はしていたんだろう。驚きを隠せない表情の郵便配達員がそこにいた。
「あの、書留です。印鑑かサインもらえますか?」
「あ、ああ、驚かせてすみません」
俺はサインを書いて、書留を受け取った。
ドアに鍵をかけ、机の上に封筒を置いて、見つめた。
さて、どうしたものか。
封筒の差出人は、神城さんだった。
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