条件は日当たり

会社を完全に退職した私は、さっそくカフェのための物件探しを始めた。


あんずを抱っこ紐に入れて、不動産屋さんと一緒にいくつかの空き店舗を回る。


「お客様、こちらの物件は駅からも近くて、人通りも多いのでカフェには最適ですよ!」

 

不動産屋のお兄さんが、熱心にオシャレな居抜き物件を勧めてくれる。


確かに、内装も綺麗でカウンターも使いやすそうだ。私が「へえ、素敵ですね……」と乗り気になった、その時。

 

スリングの中から顔を出していたあんずが、内見中の床にトコトコと降りていった。

 

そして、部屋の奥の、ほんのわずかに日が差し込んでいる狭いスペースを見つけると、そこにコロンと横たわって、そのまま目を閉じた。


「あ、あの、あんずちゃん……?」

 

不動産屋さんが戸惑う中、あんずは薄目を開けて、部屋の真ん中にあるカウンターの方を不満そうに一瞥した。


『紬、この物件、駅には近くても、私が昼寝をするための日当たりが全然足りない。不採用だ。もっと南向きの、ポカポカした場所を探しなさい』

 

完全に立地条件ではなく、自分の快適さだけで物件を審査している。


「すみません……もう少し、日当たりの良い物件ってありますか?」

 

不動産屋さんに苦笑いされながらも、私はあんずが満足するまで物件を探し続けることにした。


だって、彼女がリラックスして看板犬を務めてくれないと、私のカフェは始まらないのだから。

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