「禍福(かふく)はあざなえる縄のごとし」
ということばがある
禍福とはより合わせた縄のようなもの
災いと幸運が入れ替わり変化するのが人生
という意味だが、この物語も、まさしくあざなえる縄
文字を知らないとある老人
奇談(ふしぎな物語)を集めては、縄を結んで自分だけがわかるように「現に閉じ込めて」いた
老人に請われるまま、いくつかの奇談を披露した旅の薬売り・りん
りんもまた、老人の集めた奇談を聴かせてもらう
老人とりんの奇談は、おたがいに聴き語ることによって
その場で縄のようにより合わさってゆくように、レビュアーには思えた
やがてさいごに、りんは問う
「何故、このような話を集めていらっしゃるのでしょう」
老人は、十歳のころからいまになるまでひとに語ることのなかった
自身の体験――蝶にまつわる奇談を口にする
すると、その奇談は、老人の物語は、大きく変容しはじめる
まるで、蝶が羽化するように
この変容が、じつにおみごと
物語が、卵、幼虫、さなぎ、そして蝶へと
くるくると変わってゆくようなそのさまから
目を離すことができなかった
『戦胡蝶―いくさこちょう―』は、いわゆる奇譚(ふしぎな物語)である
読者は、奇談(ふしぎな物語)を聴き語るりんと老人の奇譚を見ている
老人の体験は、ふるい記憶のなかから立ち上がり
りんに語ることで、いまへ、現へと繋がってゆく
りんの持つ物語
老人の持つ物語
どちらが表で、どちらが裏か
いや、ひょっとして、裏も表もないのだろうか
あざなわれてゆく縄のように
読者である我々だけが見ることができる
その縄目の、なんと妖しく美しいことか
だが、そうして、最後の一文を読み終えたとき
はたして、読者は「どこ」にいるのだろう
もしかしたら、そこはすでに作者の結んだ物語の中かもしれない
彼らの裏も表もみてしまった我々は
現とふしぎとをつなぎ、ほどき、籠める胡蝶の夢
ぜひご一読ください
人間が作り出した、『最悪なもの』とはなんだろう? と考えることがある。
銃だろうか? 核だろうか? SNSだろうか? 無責任な法律だろうか?
麻薬だろうか? 砂糖だろうか?
…… ……
『言葉』ではないだろうか?
あれこれ考えるうちに、この答えにたどり着く。
この世に存在する、どのような賢い動物、虫、細菌に至る片っ端からを集めても、
そんなものに頼るのは人間以外いないのである。
この物語も、結局は『言葉のせいで泣きを見る』という終幕に至る。
同時に、戦胡蝶がなぜ人の前に姿を現さないのかも、妙に腹に落ちるのだ。
世にも奇妙な物語、
わらうせえるすまんに通ずる、オカルトと人怖の間を微妙に突いてくる本作品は、
実にクラシックなホラーと評することができよう。
ご一読を。
* * * * *
(ここからはネタバレを含みます……)
でも、思ったんだけど、
あの両親はないよね!? って思ったのは私だけ!?
そんな理由があったなら、せっかくだったら最初から里に連れてって欲しいじゃない!!
だとしたら、やっぱりそりゃあ多分口減らしだよ!!
もしくは、昔から口が軽すぎる小僧だったってんで、こうなるのわかってて山奥に捨てられたんだよ!!
などと憤りが湧くのも、この物語に引き込まれた故のことです。
これは、旅の薬売り・りんの物語、その第八節。
人の来し方行く末を人ならぬ者の目線で読み解く本シリーズの類に違わぬ、笑ってすまされぬ人の行状が明かされます。
人は、愚かで、しかし愛おしいのです。かつての行いの裏にあった訳は何であったか。分からなかった我は愚かか。
しかし、言を違えるという罪を犯せば、その報いたるや。
自然の摂理に愛は通じず、人には愚かさが残るのみ。
それでも、人の間に優劣を設けず、抗える者など一人もいないと勘づかせることで読者に向けて、貴方一人が愚かではないし、貴方一人が賢くあることもできないと諭す、最も根底に優しさを湛えるシリーズです。
大人気作者の、これ又大人気シリーズ
樟の芳香の如き『薬売りの、りん』さん
第八作目は、胡蝶の夢の中。
薬を商いながら里や村を回っては
不思議な話を集めている薬売りが人集めにと
語った 奇譚 に、里の老人が興味を抱く。
何やらこの老人も不思議な話を集めては
黒縄に結び付けて 奇譚 自体を閉じ込めて
仕舞うという。
話の礼にと、老人が幼い頃に体験したという
不思議な譚を語って聞かせるのだが…。
話してはならない、と言われたら
話したくなるのが世の常、人の常ならん。
怪に触れれば、怪へと振れる。
かつて、里の老人が見たものは果たして
何だったのか。そして一体彼は何と取引して
しまったのか。
更に、もうひとつ。
薬売りの りん とは、何者なのか。
今回、八作目にして垣間見られるその正体。
単なる旅の薬売りではないのは勿論の事
彼ら の流儀は、掟は、そして派閥は
如何なるものか。
そして最大の謎。
奇譚を集めて、どうするのか。
益々、目が離せない。
昔話では「見てはなりませんよ」「食べてはいけませんよ」「触れてはいけませんよ」と何かを禁ずる展開がしばしばあります。ほぼすべて、それを破ってひどい目にあいます。でも同列の禁のなかで「言ってはいけませんよ」はひときわ重い誓いになる気がします。
語ることは、人間が集団の中で暮らすにあたり、とても重要なコミュニケーションツールです。他言無用を誓わされると、日々そのツールを使いながら、喉に引っかかった小骨を意識し続けなくてはなりません。本作でも幼い子供が「言ってはいけない」を誓わされるのですが、子供にこれはかなりきつい禁です。負わされた時点で、いつか罰を受けることが確定しているようなものじゃないか、そう思ってしまいます。
自然の摂理は誰にでも平等に働きます。男であろうと、女であろうと、大人であろうと、子供であろうと。それは魔でもあり、魅でもあり、毒でもあります。それを体現しているのが『クスノキのりん』なのかもしれません。
彼は子どもの頃、山で不思議なものを見た。
それを契機に、辿り着いた村で知識を集め奇談を集め、発明などに活かしながら自分を受け入れてくれた村に貢献している。
そこへ奇妙な話を披露する薬売りが現れた。
これ幸いとばかりに新しい話を記録しようと自宅に招くが、はてさて本当に幸いとなるかどうか──?
薬屋りんさんシリーズです。
シリーズですが、独立して読めますのでどこからでも大丈夫です。全部、推せます!!
どれも憎悪や執着や愛情や悲しみなどが幻想的な生物と絡んで、人の人生の鮮烈さを見せてくれますが、同時に無情さも見せてくれます。
人以外の視点があることによって。
今回は幼年期の傷が癒されますが、同時に思い出に封じ込められていたものが、言葉を話す人間らしい業によって現在にやって来てしまうお話ですね。
甘くてしょっぱい。
まさに禍福はあざなえる縄のごとし。
というのを物語に編み込める作者さんは凄いのです。
蛇足になるかも知れませんが、
薬屋りんさんシリーズを読んでいる方向けにも一応叫んでおきたいと思います。
「あのッ、修験者の格好しているイケメンッ、再登場してるーーーーーー!!」
(気になった方は「枯鼴・虹蚯蚓」をチェックしてみて下さいね~)
以上、うるさめレビューで失礼いたしました。
ドラマ性に溢れるホラーの良作で評判の遠部右喬さんの人気シリーズ「旅の薬売り・りん」の最新作です。
昨日あたりから、やたら🔔にレビューコメントが入って来るので、気になってフォローしていたのですが、先程「どれどれどんなものかいな?」と少々心のハードルが上がった状態で拝読致しました。が、いや、確かにこれは良い、素敵な作品でした。文章も相変わらず飾ったところがない、読みやすい美文です。
ストーリー概要は、他の方のレビューコメントに詳しいでしょうから、やめておきますが、このシリーズ、ホラー&ファンタジーなんですけれど、基本は人情を扱ったヒューマンドラマですね。その分、不思議なお話なのですが、リアルに心に響いてきます。
今回は、村の長老蕨爺の幼少時の悲しい体験の真実が、りんに話すことで明かされ、心の光明を見出すお話でしたが、その代わりに得た結末がまた物悲しかった。。
ハピエンなのかビターエンドなのか、判別の難しい余韻あるラストシーンがとても印象的な良作でした。
これはわたくしもお勧めです。
蝶々というのは、様々な「意味」が投影される存在となっています。
人の魂が抜けて蝶々の姿に変わるという話もあれば、蝶々が出現すことが吉や凶を予見するものであるという説もある。
本作ではそんな「蝶々」にまつわる不思議な逸話が紐解かれることになっていきます。
旅の薬屋である「りん」が蕨爺という老人と出会う。「珍しい物語」をそれぞれ語り合い、お互いの知っている話を交換し合うことに決めた二人。
老人はりんに対して自分の知っている話のいくつかを聞かせるものの、そこには共通している「あるもの」が登場してくることにりんは気が付く。
老人は「何か」を気にかけて逸話を収集しているのではないか。過去に何か懸念するようなことがあったのかと問われ、蕨爺は「とある出来事」について語ることに……。
読み進めるごとに、「過去には一体何が」、「目撃された蝶々には一体どんな意味が」と好奇心を強く刺激されることになっていきます。
とある子供が目撃したという不思議な蝶々。その先で出会った修行僧からかけられたという意味深な言葉。
子供の身に起こった出来事と、修行僧が知っていたと思われる何らかの事情。そこに絡む蝶々の存在。
それらのパズルのピースが一つにまとまった時、りんが指摘する一個の「事実」。蕨爺の物語集めと、蝶々に対するこだわり。
この世の裏側に存在する奇妙な法則や、最終的に老人が迎える「因果」とでも呼ぶべき事態。
何かを切望せずにいられない人の強い想いとか、存在の儚さのようなもの。そうした様々な「世の数奇」というものが蝶々の逸話と共に紐解かれていく。
しっとりとした中に激しさや切なさの感じられる、とても素敵な作品でした。
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