第28話 最短攻略
戦闘開始から八分が経過していた。
シャドウアーマーの体力は、樹の《看破・中級》の見立てで残り四割程度。順調だ。しかし問題が一つあった。
(動きが変わった)
五分を過ぎたあたりから、シャドウアーマーの行動パターンが変化していた。単純な追尾から、樹と花音を交互に狙う複合行動に切り替わっている。
「花音、右に寄るな」
「わかってます!」
花音は即座に軌道を変えた。シャドウアーマーの剣が空を切る。
(体力が半分を切ると行動が変わる。データに追記する)
樹は動きながら考えていた。
現状のビルドはAGI51.7、STR26。機動力で翻弄しながら《光刃》で削るスタイル。しかし相手の動きが複雑化した今、このままでは削り合いになる。
(ここで組み替える)
樹はステータス配分画面を開いた。
戦闘中でも操作はできる。ただし、切り替えには三秒かかる。
三秒——動きを止めるわけにはいかない。しかし、一瞬だけ距離を取れば作れる時間だ。
シャドウアーマーの次の一撃が花音に向かった瞬間、樹は後方に大きく跳んだ。
(今だ)
AGI51.7から2ポイント抜いて、STRに回す。STR28。
三秒。
体が少し重くなる感覚。と同時に、次の一撃の手応えが変わるのが予測できた。
「樹くん、今のいつもより深く入りました!」
花音が気づいた。目が鋭い。
「STRを少し上げた。ここから削り切る」
「了解! あとどのくらいですか!」
「三分」
花音は頷いて、《瞬迅》を全開にした。
◇
残り体力、一割。
シャドウアーマーが最後の一撃を振りかぶった瞬間、花音が真正面から突っ込んだ。
囮だ。
シャドウアーマーの注意が完全に花音に向く。樹はその刹那、真後ろに回り込んだ。
《光刃》最大出力。
背中の中心を、一直線に貫く。
シャドウアーマーが揺れた。
黒い霧が四方に散って、消えた。
討伐完了。戦闘時間、十一分三十二秒。
「……早くないですか、これ」
花音がぐったりしながら言った。
「平均より十三分短縮」
「十三分!? 普通二十五分かかるんですよ?」
「連携が上手くいった」
「連携というか、樹くんが途中でステータス変えてましたよね。あれ、戦闘中にできるんですか」
樹は少し考えた。
「できる。ただし三秒止まる必要がある」
「三秒って……危なくないですか?」
「距離を取れる瞬間を選べばいい。今日はシャドウアーマーの注意が花音に向いたタイミングで使った」
「……それって私を囮にしてたってことですか」
「計算の上だ」
花音はしばらく樹の顔を見た。それから力が抜けたように笑った。
「まあ、信頼されてるってことにしておきます」
その笑い方を、樹は少し気に入り始めていた。
◇
ボス討伐の報酬を確認する前に、樹はステータスを戻した。
STR28 → 26。AGI49.7 → 51.7。
戦闘中の組み替えはあくまで一時的な措置だ。恒久的に変えるなら、別途データを積んでから判断する。
報酬を確認して、樹はCランク試験の申込を決めた。
現在Lv.19。試験までに20は超えられる。
(次のステージに行く)
ただ一つ、頭に引っかかっていることがあった。
(三秒は長い)
今日は上手くいった。しかし相手が強くなるほど、三秒の隙は致命的になる。《自由配分》がLv.3に上がれば、この制約がなくなるはずだ。
それまでは——三秒を作れる状況を、自分で設計するしかない。
――続く
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【作者コメント】
第28話です。お読みいただきありがとうございます。
戦闘中のステータス組み替え、初披露でした。
ただし今はまだ三秒の制約つき。この三秒という制限が、今後の戦闘でどう絡んでくるか。Lv.3への動機にもなっています。「静的な最適化」から「動的な最適化(制限あり)」へ、一段階進んだ樹の戦い方をお楽しみください。
日向 なつ
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