第19話 計算と感情
花音との連携データが三週間分揃った。
樹は宿営地でノートを広げた。
単独での討伐平均時間。花音との連携での討伐平均時間。経験値収集効率の比較。被弾率の変化。
数字を並べると、答えは明確だった。
全ての指標で、連携の方が上だ。
(連携が最適解だ)
今まで「データが揃ってから判断する」と保留にしていたことへの、正式な結論だ。
花音に報告する。
「連携の検証結果が出た」
「どうでしたか」
「全指標で単独より上だ。連携を続けることが最適解と結論づけた」
花音はしばらく樹の顔を見た。
「……樹くん、それって、これからも一緒に探索したいってことですよね」
「データ上の結論だ」
「わかりました」
花音は笑った。その笑い方に、いつもと少し違う何かがあった気がしたが、樹には言語化できなかった。
◇
その日の探索の帰り道、樹は一人で歩きながら考えていた。
花音との連携が最適解だと認めた。それは正しい判断だ。
しかし、もう一つ気になることがある。
数字では説明できない何かが、最近の探索にある気がする。
例えば、花音が「任せてください」と言ったとき。例えば、三体のダークナイトを二分五秒で片付けたとき。
効率が上がった、という事実の他に、何か別のものがある。
(何だ、これは)
樹には答えが出なかった。
◇
宿営地に戻ると、花音がまだいた。自分のノートに何かを書いている。
「まだいたのか」
「樹くんを待ってました」
「なぜ」
「なんとなく」
根拠がない。しかし樹は、それを問い質さなかった。
花音が顔を上げた。
「樹くん、最近変わりましたよね」
「どこが」
「うまく言えないんですけど……一人より今の方が何か多い気がします、って言ったら伝わりますか」
樹は少し止まった。
(一人より今の方が何か多い)
「……わかる気がする」
樹が言った。
花音が少し驚いた顔をした。
「樹くんがそういうこと言うの、珍しいですね」
「データでは説明できない感覚がある。それを否定する根拠もない」
花音はしばらく樹を見て、それからゆっくり笑った。
「それって、樹くんなりに楽しいってことじゃないですか」
樹には返す言葉がなかった。
否定もできなかった。
◇
翌日、橘から連絡が来た。
「白石くん、探索者協会の矢島さんという方から問い合わせが来ています。《自由配分》について、改めて正式に話を聞きたいと」
(協会が動いた)
「わかった。日程を調整する」
やることは変わらない。
ただ、外の世界が少しずつ動き始めているのを、樹は感じていた。
――続く
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【作者コメント】
第19話です。お読みいただきありがとうございます。
「一人より今の方が何か多い気がします」——花音のこの言葉に、樹が「わかる気がする」と返した回です。データでは説明できない感覚を否定しなかった。樹にとってはこれが大きな変化です。そして協会が動き始めました。次話は九条玲視点です。
日向 なつ
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