第19話 計算と感情

 花音との連携データが三週間分揃った。


 樹は宿営地でノートを広げた。


 単独での討伐平均時間。花音との連携での討伐平均時間。経験値収集効率の比較。被弾率の変化。


 数字を並べると、答えは明確だった。


 全ての指標で、連携の方が上だ。


(連携が最適解だ)


 今まで「データが揃ってから判断する」と保留にしていたことへの、正式な結論だ。


 花音に報告する。


「連携の検証結果が出た」

「どうでしたか」

「全指標で単独より上だ。連携を続けることが最適解と結論づけた」


 花音はしばらく樹の顔を見た。


「……樹くん、それって、これからも一緒に探索したいってことですよね」

「データ上の結論だ」

「わかりました」


 花音は笑った。その笑い方に、いつもと少し違う何かがあった気がしたが、樹には言語化できなかった。



 その日の探索の帰り道、樹は一人で歩きながら考えていた。


 花音との連携が最適解だと認めた。それは正しい判断だ。


 しかし、もう一つ気になることがある。


 数字では説明できない何かが、最近の探索にある気がする。


 例えば、花音が「任せてください」と言ったとき。例えば、三体のダークナイトを二分五秒で片付けたとき。


 効率が上がった、という事実の他に、何か別のものがある。


(何だ、これは)


 樹には答えが出なかった。



 宿営地に戻ると、花音がまだいた。自分のノートに何かを書いている。


「まだいたのか」

「樹くんを待ってました」

「なぜ」

「なんとなく」


 根拠がない。しかし樹は、それを問い質さなかった。


 花音が顔を上げた。


「樹くん、最近変わりましたよね」

「どこが」

「うまく言えないんですけど……一人より今の方が何か多い気がします、って言ったら伝わりますか」


 樹は少し止まった。


(一人より今の方が何か多い)


「……わかる気がする」


 樹が言った。


 花音が少し驚いた顔をした。


「樹くんがそういうこと言うの、珍しいですね」

「データでは説明できない感覚がある。それを否定する根拠もない」


 花音はしばらく樹を見て、それからゆっくり笑った。


「それって、樹くんなりに楽しいってことじゃないですか」


 樹には返す言葉がなかった。


 否定もできなかった。



 翌日、橘から連絡が来た。


「白石くん、探索者協会の矢島さんという方から問い合わせが来ています。《自由配分》について、改めて正式に話を聞きたいと」


(協会が動いた)


「わかった。日程を調整する」


 やることは変わらない。


 ただ、外の世界が少しずつ動き始めているのを、樹は感じていた。



                           ――続く



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【作者コメント】

第19話です。お読みいただきありがとうございます。


「一人より今の方が何か多い気がします」——花音のこの言葉に、樹が「わかる気がする」と返した回です。データでは説明できない感覚を否定しなかった。樹にとってはこれが大きな変化です。そして協会が動き始めました。次話は九条玲視点です。


                       日向 なつ

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