第7話 それでも最適解


 三層に入った日、樹は壁にぶつかった。


 アイアンゴーレム、上位種。


《看破》で数値を見る。通常のゴーレムよりDEFが三割増しだ。関節部のDEFも上がっている。


(《連撃》が通らない)


 三連を叩き込んだ。弾かれた。手が痺れた。


 距離を取る。


(どうする)


 今のビルドはAGI寄りで、STRは必要最低限だ。DEFの高い相手には火力が足りない。


 選択肢は二つ。


 一つ目、STRにポイントを回す。しかしAGIを削れば機動力が落ちる。ゴーレムの攻撃を躱せなくなる可能性がある。


 二つ目、今日は撤退してデータを集める。


(今日はデータ収集の日と決める)


 樹は剣を下げた。


「撤退する」


 花音が驚いた顔をした。


「撤退……できるんですか、白石くんって」

「わからないことに突っ込むのは非効率だ」

「でも、悔しくないですか」


 樹は少し考えた。


「悔しいかどうかより、最適かどうかだ。今日のゴーレムには勝てない。それはデータとして受け入れる」


 花音はしばらく樹の顔を見た。


「……樹くんって、すごいですね」

「何が」

「負けを認められる人って、実は少ないですよ。プライドが邪魔して、データが見えなくなる人が多い」


 樹には、その感覚がよくわからなかった。プライドがデータを歪めるのは、ただの非効率だ。


「一層に戻る。上位ゴーレムの攻略に必要なSTRのラインを計算する」

「はい」


 花音がついてくる。


◇


 宿営地で、樹はノートに数字を並べた。


 上位ゴーレムのDEF推定値。それを突破するのに必要なSTR。そのSTRを確保した場合のAGIの下限。AGIが下がった場合の回避成功率の変化。


 計算する。


(AGIを3削って、STRに回す。それが限界だ)


 それで上位ゴーレムのDEFを突破できるかどうかは、まだわからない。実際に試すしかない。


「どうでしたか」


 花音が隣でノートを覗き込んでいた。


「AGIを3削る。それでSTRが上がる。攻撃力は上がるが、機動力は落ちる」

「リスクはありますか」

「ある。AGIが下がれば回避ができなくなる場面が増える。それを花音の陽動でカバーできれば、成立する」


 花音が少し目を輝かせた。


「私が必要ってことですね」

「計算上は、そうなる」


 花音は満足そうに笑った。


「わかりました。明日、やってみましょう」


 樹は頷いた。


(まだ答えは出ていない。しかし、最適解への道筋は見えた)



                           ――続く



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【作者コメント】

第7話です。お読みいただきありがとうございます。


「わからない」と認めて撤退する樹。

AGIを削ればSTRが上がる。でもAGIを削りすぎれば回避ができなくなる。このトレードオフをどう解決するか——花音の存在が「計算の一部」になり始めています。次話で答えが出ます。


                       日向 なつ

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