効率厨のダンジョン探索
日向 なつ
第1話 「自由配分」
ダンジョンが出現してから、二十年が経った。
最初は世界中がパニックだったらしい。地面が割れて異空間への入口が現れて、中からモンスターが這い出してくる。そんな話、フィクションの中にしかなかったものだ。
しかし人間は慣れる。
今では駅前や街中に、地下鉄の入口そっくりのコンクリート構造物が立っている。「ダンジョン入口」と書かれた看板が出て、探索者証を持った人間だけが入れる。探索者は医者や弁護士と並ぶ人気職になった。高収入で、社会的地位もある。
白石樹は、その入口の前に立っていた。
十五歳。高校入学を来週に控えた、どこにでもいる少年だ。
どこにでもいる、と言えば嘘になるかもしれない。樹には、昔からある癖がある。
効率を考えずにいられない。
学校の授業は最小限の勉強で最大の点数を取る方法を考えていた。部活は費用対効果が悪いので入らなかった。友人関係は必要な情報交換だけできれば十分だと思っていた。
悪意があるわけじゃない。ただ、無駄が気になる。
そういう人間が、ダンジョンに興味を持ったのは必然だったかもしれない。
◇
ギルド「フロンティア」の受付は、ダンジョン入口から徒歩三分のビルにある。
「はじめてのご登録ですね」
受付の女性が確認するように言った。
「はい」
「年齢確認させていただきます。十五歳以上であれば登録可能です」
身分証を出した。確認される。問題なかった。
登録用紙に必要事項を書く。名前、年齢、緊急連絡先。
「武器はお持ちですか?」
「持っていない」
「では入門者向けの貸し出しセットをご用意できます。片手剣、盾、回復薬三本のセットです」
「片手剣だけでいい」
「盾は——」
「要らない。盾を持つより、回避に特化した方が効率がいい」
受付の女性が少し驚いた顔をした。しかし何も言わず、片手剣のレンタル手続きを進めてくれた。
◇
ギルドを出て、ダンジョン入口に向かう。
コンクリートの階段を下りると、空気が変わった。
ひんやりとした、石造りの廊下。松明のような光源が等間隔に並んでいる。天井は低い。通路の幅は二人並べるくらいだ。
(Fランクダンジョン、一層。事前情報通りだ)
樹は歩き出した。
最初のモンスターはスライムだった。
緑色のゼリー状の塊が、ゆっくりと近づいてくる。弱い。誰でも知っている。
片手剣を抜いて、一撃で仕留めた。
その瞬間、頭の中に文字が浮かんだ。
――スキルを取得しますか?
樹は少し止まった。
初回のダンジョン入場時、一つのスキルがランダムで付与される。それがシステムの仕組みだ。事前に調べてある。
(何が来るか)
承認する。
――《自由配分/フリーアロケート》を取得しました。
樹は画面を見た。
聞いたことがない名前だった。
スキルの説明を開く。
【《自由配分/フリーアロケート》ランク:ユニーク】
・ステータスを自分で自由に振り分けられる
・経験値を消費してスキルを自由に購入できる
・レベルアップ時の固定スキルは付与されない
樹はしばらくその画面を見ていた。
(ユニーク、か)
最高ランクのスキルだ。しかし名前も効果も、データベースに存在しない。完全な未確認スキル。
ステータス振り分け画面を開いてみた。
初期ポイントが表示されている。そして——余らせることはできない、と注記がある。全てのポイントをどこかに振り切る必要がある。振り先を変えることはできても、貯めることはできない。
(なるほど)
量は同じ。自由度だけが違う。
樹は少し考えた。今の自分に何が必要か。
AGIだ、と判断した。まず速く動けなければ話にならない。生存率が上がる。データ収集の時間も伸びる。
全ポイントをAGIに振り切った。
体が少し軽くなった気がした。
樹は片手剣を握り直して、次の通路に向かった。
――続く
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【作者コメント】
第1話です。お読みいただきありがとうございます。
白石樹の物語、始まりです。
《自由配分》というスキル——強そうに見えて、実は「量は同じ、自由度だけが違う」という地味な能力です。それをどう使い倒すかが、この物語の全てです。次話では最初の計算が始まります。
日向 なつ
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