効率厨のダンジョン探索

日向 なつ

第1話 「自由配分」

 ダンジョンが出現してから、二十年が経った。


 最初は世界中がパニックだったらしい。地面が割れて異空間への入口が現れて、中からモンスターが這い出してくる。そんな話、フィクションの中にしかなかったものだ。


 しかし人間は慣れる。


 今では駅前や街中に、地下鉄の入口そっくりのコンクリート構造物が立っている。「ダンジョン入口」と書かれた看板が出て、探索者証を持った人間だけが入れる。探索者は医者や弁護士と並ぶ人気職になった。高収入で、社会的地位もある。


 白石樹は、その入口の前に立っていた。


 十五歳。高校入学を来週に控えた、どこにでもいる少年だ。


 どこにでもいる、と言えば嘘になるかもしれない。樹には、昔からある癖がある。


 効率を考えずにいられない。


 学校の授業は最小限の勉強で最大の点数を取る方法を考えていた。部活は費用対効果が悪いので入らなかった。友人関係は必要な情報交換だけできれば十分だと思っていた。


 悪意があるわけじゃない。ただ、無駄が気になる。


 そういう人間が、ダンジョンに興味を持ったのは必然だったかもしれない。



 ギルド「フロンティア」の受付は、ダンジョン入口から徒歩三分のビルにある。


「はじめてのご登録ですね」


 受付の女性が確認するように言った。


「はい」

「年齢確認させていただきます。十五歳以上であれば登録可能です」


 身分証を出した。確認される。問題なかった。


 登録用紙に必要事項を書く。名前、年齢、緊急連絡先。


「武器はお持ちですか?」

「持っていない」

「では入門者向けの貸し出しセットをご用意できます。片手剣、盾、回復薬三本のセットです」

「片手剣だけでいい」

「盾は——」

「要らない。盾を持つより、回避に特化した方が効率がいい」


 受付の女性が少し驚いた顔をした。しかし何も言わず、片手剣のレンタル手続きを進めてくれた。



 ギルドを出て、ダンジョン入口に向かう。


 コンクリートの階段を下りると、空気が変わった。


 ひんやりとした、石造りの廊下。松明のような光源が等間隔に並んでいる。天井は低い。通路の幅は二人並べるくらいだ。


(Fランクダンジョン、一層。事前情報通りだ)


 樹は歩き出した。


 最初のモンスターはスライムだった。


 緑色のゼリー状の塊が、ゆっくりと近づいてくる。弱い。誰でも知っている。


 片手剣を抜いて、一撃で仕留めた。


 その瞬間、頭の中に文字が浮かんだ。


 ――スキルを取得しますか?


 樹は少し止まった。


 初回のダンジョン入場時、一つのスキルがランダムで付与される。それがシステムの仕組みだ。事前に調べてある。


(何が来るか)


 承認する。


 ――《自由配分/フリーアロケート》を取得しました。


 樹は画面を見た。


 聞いたことがない名前だった。


 スキルの説明を開く。


【《自由配分/フリーアロケート》ランク:ユニーク】

・ステータスを自分で自由に振り分けられる

・経験値を消費してスキルを自由に購入できる

・レベルアップ時の固定スキルは付与されない


 樹はしばらくその画面を見ていた。


(ユニーク、か)


 最高ランクのスキルだ。しかし名前も効果も、データベースに存在しない。完全な未確認スキル。


 ステータス振り分け画面を開いてみた。


 初期ポイントが表示されている。そして——余らせることはできない、と注記がある。全てのポイントをどこかに振り切る必要がある。振り先を変えることはできても、貯めることはできない。


(なるほど)


 量は同じ。自由度だけが違う。


 樹は少し考えた。今の自分に何が必要か。


 AGIだ、と判断した。まず速く動けなければ話にならない。生存率が上がる。データ収集の時間も伸びる。


 全ポイントをAGIに振り切った。


 体が少し軽くなった気がした。


 樹は片手剣を握り直して、次の通路に向かった。



                           ――続く



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【作者コメント】

第1話です。お読みいただきありがとうございます。


白石樹の物語、始まりです。

《自由配分》というスキル——強そうに見えて、実は「量は同じ、自由度だけが違う」という地味な能力です。それをどう使い倒すかが、この物語の全てです。次話では最初の計算が始まります。


                       日向 なつ

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