PROJECT: ARC (後編)
一応は未来志向の理系特化型の大学だが、科学技術系大学の中では最下層に等しいと言っても良いだろう。
そんな中小規模の大学ではあるが、所有面積そのものは非常に広い。
学園都市に匹敵するか、それ以上。
これは土地価格が異なる、田舎ならではの長所と言えた。
とはいえ、学園都市のように建造物が多いというわけではない。
本当にただ、広いだけ。
設立当初はどこぞの学園都市を目指し、やれ工場だやれ研究所だと色々頑張っていた。
最終的にはロケット発射場と言った宇宙事業の展開なんかも夢見ていた。
結局『夢破れたり、か』となってしまったが。
広いのは、その夢の名残。
今あさひが居る場所も、その失敗した施設の一つであった。
あまりにも遠かったから学校で借りた自転車に乗って到着した、学内の端の端。
ぼうぼうに伸びきった草木は土の上だけでなくアスファルトにまで浸食し、緑の世界を作っている。
その草むらの中央に見えるのは、飛行場の倉庫のように巨大な、平屋タイプのガレージ。
そこもまた周囲と同じように時間による風化が見え、汚れや錆が目立っていた。
まるで、ポストアポカリプスかのような有様。
とはいえ、それも当然だった。
ここは廃棄されて、もう十年も経つのだから。
イクス・ユニットは特殊技術の塊であるため、外見よりも安全度合いは高く、重大事故はそう多く起きない。
それでも事故というのは決してゼロに出来るものではなく、そして運が悪いことに、その年は事故が重なった。
『イクス・ユニット重大事故が三件も起きた悲劇の年』
十年前はそう呼ばれ、そしてこれまで以上に厳重な規制と管理義務が課せられた。
その三大事故最後の一つが、この大学で起きた。
その現場自体は取り壊されなくなっているが。
大学は……彼らは悪くない。
むしろ巻き込まれた側である。
けれど……それでも、学内でユニットによる重大事故が大学で起きた。
死傷者こそ出なかったものの、負傷者が数名。しかも見学していた子供が数名巻き込まれ、後遺症を残すほどの重症となった。
だから、部活動は廃部となった。
あの日、憧れた彼らはただ失敗という烙印を押され、"なかったもの"とされた。
あさひの夢は、追いかけたかった背中は、いつの間にか
憧れたあの人は、事故で心を折り、諦めた聞いたのは、ずっと後だった。
悲しかった。
悔しかった。
絶望した。
だから……だからこそ、あさひは誓いを立てた。
『プロのPDになる』
あの日見た背中は正しかったのだと、証明するために。
正面の巨大ゲートを見て、あさひは期待に胸を膨らまし、想いを馳せる。
ここから発進するのかな。
アニメの発進シーンみたいになるのかな。
何なら自分で発進してみたいな。
機体名と自分の名前を叫んでから。
なんて妄想をしているが、実際のところはたぶん違う。
そもそも、大学のどこに発進する意味があるというのか。
組み立てや改良のための搬入。
もしくは、純粋にただの倉庫。
それでも、無駄な夢を見るくらいにはあさひは浪漫思考であった。
巨大ゲート脇の、埃をかぶったネームプレートを払い、夢の残骸の名を確認する。
『宇宙空間向け汎用作業用ロボット・応用研究及び構築事業部』
なんともまあ長い名前だろうか。
会社の役職だってここまで長くはならないだろう。
よほど、独特なセンスだったんだなとあさひは苦笑する。
そしてこんな長い名前だから、正式な会場でさえその名は呼ばれなかった。
『Applied Robotic Construction & Development Division』
その中から三つの頭文字を取り――【ARC】。
一般的に『
あさひはガレージの周りをぐるりと回って、鍵のかかっていない裏口を見つる。
錆びて重たくなったドアノブをひねり、そのまま中に入る。
ガレージの中は、完全なる闇となっていた。
背後の扉から照らされる光さえ足元の先で途切れている。
何も見えない中、明かりを探し壁に手を触れた瞬間――。
パン!
乾いた音が、一つ、二つ。
驚き、腰を抜かしかけたその直後、ガレージに明かりが灯った。
眩しさの落差に眉を顰め、顔に手を覆う。
徐々に光に慣れ、手を退けたそこには、神楽坂兄妹がこちらに向かい立っていた。
兄である
妹の方はもう、これでもかと満足げな表情。
そして二人の手には、使ったばかりのクラッカーが握られていた。
「素敵な歓迎に感謝を申し上げた方がよろしいでしょうか?」
微笑を浮かべ、皮肉を込めてあさひが言うと、なぎさはくすりと笑った。
「構わないさ。君と私の仲じゃないか」
どんな仲だと思ったが、まあ何も言わずあさひは微笑でごまかした。
「色々とすまない。天羽。こいつが本当に迷惑をかける……。それと、遅れたが入学おめでとう。在校生として心から歓迎する」
「……達臣先輩……で、良いですよね?」
「ん? ああ。構わない。それでどうした?」
「いえ。その……なぎさ先輩と双子なんですよね?」
「大変不服なことに、その通りだ」
「えっと……そんな真面目で疲れません?」
その通り過ぎて、達臣は眉をひそめ、ただしかめっ面となることしか出来なかった。
「さて……とりあえずこうして箱舟の復興に乗り出したわけなのだが……ううむ。何から話そうか……」
なぎさは腕を組み、どこか困った様子で気まずそうにそう呟いた。
「えっと、とりあえず部員はこの三人ですか? まあ、確かにPDが三人いればユニットの部活動は認められるはずですが……」
ただしそれは本当に最低限、部活と認められるというだけであり、三人だけだとレンタルユニットのメンテ一つ行えない。
「あー……天羽。悪いんだが、良いニュースが一つ、そして悪いニュースが二つある。すまないが少し聞いてくれないだろうか?」
「へ? あ、はい。お願いします」
「……まず、良いニュースから済ませようか。外部協力者はそれなりに確保出来ている。常駐している人はいないものの、メンテや修理で困ることはないと思うぞ」
「あ、それは嬉しいですね。具体的にどのくらいか聞いても?」
「学内にある工業系部活動三か所と協議提携を。それと四つの地元企業から人員提供と小規模工場を一つ貸してもらえている。人数で言えば校内で二十人ほど、校外だと百三十人くらいだな。一応まだ増える予定ではある」
「おおー」
あさひはぱちぱちと拍手をしてみせる。
既存のイクス・ユニット系部活と比べたら大分物足りないのは間違いない。
それでも、これだけ協力者がいれば他の大学と同じ土俵に上がることは出来るだろう。
むしろ、何の実績もないうちにそれだけ支援してくれているというのは奇跡に等しい。
田舎特有の地元愛を計算したとしてもなお"ありえない"と断言出来る程度には。
そんな簡単に支援が受けられるのなら、ユニット関連の部活をもっと多くの大学が開いているはずだ。
「それで……ここからが悪いニュースだ。確かに、イクス・ユニットを用いた部活動ルールは『PD三人』という最低条件がある。それは正しい認識だ」
「その言い方だと、何かあるんです?」
「ああ。それはあくまで"イクス・ユニット運営サイドとして"のルールだ。神科大では、どの部活動でも『最低五人』というルールが指定されている」
「じゃあ、あと二人集めないといけないんですね」
達臣は、なお表情を暗くした。
「あー……。前も言ったが、俺たちは学生であると同時に学内業務に多く携わっており、それゆえに多くの特権を持っている。
「まあ、そうでしょうね。こんな金食い虫を大企業でもなく始められるってよほどだと思います」
「その通りだ。だからな……その……俺たちは生徒であるのは正しいが、大学を運営する側の人間でもあって……端的に言うと、俺たちは部活動に参加出来ない」
「…………えっ?」
「すまない。全面協力はする。予算に関しても努力しよう。けれど、正式メンバーに俺たちは含まれない。それが二つ目の悪いニュースだ」
「えっと……じゃあ、つまり……」
あさひは静かに、自分を指差した。
現在、アークに入ることが決まっているのは自分だけかという確認を兼ねて。
達臣は申し訳なさそうに、なぎさは楽しそうに、けれど二人同時に、大きく首を縦に動かした。
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