「異世界ファンタジー」と聞いて、何を想像するでしょうか。
勇者、魔王、冒険者、ダンジョン、派手な魔法バトル。
この作品にも勇者の剣は出てきます。
でも主人公は戦いません。鑑定します。
舞台は王都セルヴィアの古物商〈ブラン堂〉。
主人公カーラ・ブランのもとには、なぜか毎日のように妙な品物が持ち込まれます。
着ると一時間おきに秘密を暴露するドレス。
勝手に増殖するティーカップ。
毎朝描かれている場所が変わる地図。
本物の勇者の剣。
そして、どう考えても普通ではない地下室。
それらをカーラが「王国公認古物商」として淡々と鑑定し、値段をつけ、帳簿に記録していく。
この「異世界の不思議」を「仕事」として処理していく感覚が、とにかく面白い。
第一話から、百六十年前の魔法のドレスについて「着ると秘密を朗読されるので銀貨二十枚」と査定してしまう。この世界では魔法の品物でさえ、歴史があり、相場があり、法律があり、売買される「古物」なのです。
そして何より好きなのが、カーラの語り口。
丁寧な「です・ます調」なのに、内心はかなり辛辣。
祖父の返事は「信用しないことにしています」。
変な客が来ても「プロの仕事です」。
何か起きても、とりあえずお茶を淹れる。
感情を大げさに爆発させないからこそ、ツッコミがじわじわ効いてきます。
しかも、この作品は単なる「変なアイテムが毎回来る日常コメディ」ではありません。
序盤から繰り返し登場する〈ヴェルナ〉。
ブラン堂の地下室。
三年前から帰ってこない父。
ブラン家が代々関わってきた封印。
勇者とアストラン家。
二百本を超える謎の鍵。
最初はバラバラに見えた「今日の変な持ち込み品」が、少しずつ一本の大きな謎へ繋がっていきます。
その一方で、話が進んでもちゃんと「古物商の話」であり続けるのがすごく良い。
たとえば偽物の勇者の剣が持ち込まれれば、カーラは数秒で偽物だと見抜く。でも、そこで客を笑って追い返さない。
「勇者の剣としては価値がありません。でも、剣です」
伝説ではなく、物そのものを見る。
これこそ、この作品の芯なのだと思います。
さらに途中から加わる見習い志望のリディアが、また強烈です。
「拾いました!」
「拾わないでください」
このやり取りだけでだいたい説明できます。
何でも拾ってくる十三歳と、何でも鑑定してしまう古物商。
相性が良すぎます。主に物語的な意味で。カーラにとっては最悪でしょう。
派手な俺TUEEEEでも、世界を救う英雄譚でもない。
古物を鑑定する。
お茶を淹れる。
帳簿をつける。
役所に書類を出す。
地下室から変な音がする。
見習いが何か拾ってくる。
父親がまた面倒事を送ってくる。
そんな「異世界の日常」の積み重ねが、いつの間にか王国の歴史そのものへ繋がっている。
日常系お仕事ファンタジーとして読めて、コメディとして笑えて、古物をめぐる蘊蓄が楽しくて、長編ミステリのように伏線を追うこともできる。
かなり珍しいタイプの異世界ファンタジーです。
そして読んでいるうちに、たぶん気づきます。
カーラが「今日は平穏です」と思った瞬間が、一番信用できないということに。
ブラン堂は今日も営業中。
たぶん地下室では、何かが起きています。
まずはとにかく読んでみてください!
勇者、俺TUEEEE、冒険、チート、ハーレム、ギルド、ダンジョン、ステータス、スキル…といった異世界もののテンプレがいっさいありません。スローライフと思わせて
異世界ファンタジーあるあるな中世ヨーロッパ風の世界観ではなく、科学と魔法が同時に存在し、役所や法律などもある少し文明が進んだ18〜19世紀のような世界が舞台です。
そしてカーラさんの少し毒舌な「です・ます調」の一人称モノローグ。これで話を50話以上も継続していても飽きさせない作りは作者が徹底的に計算して書かれており、文章力や構成力の高さの証左とも言えます。
普通のファンタジー世界でのお仕事小説と見せかけて謎要素や伏線回収など、ミステリ的な要素もふんだんに盛り込まれていてファンタジー×お仕事小説×ミステリーとしてもよめます。
嫌な敵も現れず、優しい世界でありつつ、未だ謎が多い世界。役所仕事や税金の話など、現実にも通じる風刺(ブラックユーモア)をファンタジー異世界に巧く嫌味もなく、落とし込んでいるのは流石です。
特にカーラさんの淡々といつつも、上品で毎度毎度トラブルに仕方なく、巻き込まれる少し不思議な世界観は他の作品では味わえない雰囲気です。おじい様のガストンや見習いのリディアさん、メル氏、ライゼン氏など個性的なキャラも生き生きとしていて、ただ、設定のために作られたキャラとは思えないほど。
恐らく作者はかなり物語の設定や世界観を作り込んでから書いているようにも思えます。しかし、一気に世界説明をせず、ところどころで必要になった少しだけ解説される巧さ。他の作品も見習うべきだと思います。
長くなりましたが……
とりあえず、数話読んでみてください!
一気にカーラさんのこのブラン堂に引き込まれます。